31年間に渡る科学的な研究をまとめたメタアナリシスによると、LSDや幻覚キノコなどの幻覚剤を一度でも使用した人には性格の変化が見られ、またその変化は持続したそうだ。学術誌「Neuroscience & Biobehavioral Reviews」が発表した。
伝統的なルーツ
この発見はなにも新しいものではない。昔から宗教儀式にペヨーテ、アヤワスカやテオナナカトル(幻覚キノコ)などを使用してきた民族は、それらの幻覚剤に人の精神状態を変える効能を認めてきた。

神経生物学、薬理学などの研究が進むにつれ、科学の力で幻覚剤が人間にどのように作用するかが解明されつつある。今回、ブラジルとスペインの研究者チームが1985年から2016年までに発表された369件の学術研究のうち、特にセロトニン作動性の幻覚剤に言及したもの18件を調べた結果、幻覚剤の使用による性格の変化が確認されたそうだ。
複数の鍵
セロトニン作動性の幻覚剤にはLSD、幻覚キノコやアヤワスカが含まれる。「セロトニン作動性」という名前のとおり、神経伝達物質のセロトニンに似た構造をしているこれらの薬物は、セロトニンに替わって5-HT2A受容体に作用することで大脳皮質に影響する。
もともと神経伝達物質と受容体は、鍵と鍵穴のような1対1の関係だと考えられてきた。ところが幻覚剤のようにセロトニン以外の物質でも5-HT2A受容体に作用することが解明され、幻覚剤の生化学的な働きがより明らかになってきた。
幻覚剤が実際どのように5-HT2A受容体に作用しているかは諸説があるようで、セロトニンよりも頑丈にくっついて長い間離れない幻覚剤もあれば、セロトニンとは違うスイッチを入れることで、受容体の働きを変えてしまう幻覚剤もあるようだ。
薬物が性格を変える
効果は薬物によっても摂取する人によっても様々なようだが、脳の視覚的な働きに大きく影響し、時間と空間の感覚が変化したり、自己を超越して広い世界とつながる一体感を感じたり、高揚感を伴う幻覚を見るという。
LSD、幻覚キノコとアヤワスカを使用した臨床実験の結果をまとめたところ、いずれの薬物を使用した人には長期的(あるいは恒久的)な性格の変化が見られたそうだ。
特に少量の薬物を臨床研究のために摂取した被験者においては、摂取しなかった被験者よりも「経験への開放性」という項目において高い数値を記録したという。いくつかの研究においては、薬物摂取後に一年以上も持続した抗うつ効果が見られた場合もあったそうだ。
性格の流動性
ここで問題となるのが「性格」の定義だ。性格とは、人がそれぞれ生まれ持った不変的な要素なのか、それとも環境や状況の変化によって流動的に変わっていくものなのだろうか。
薬物がもたらす性格の変化を見極めるには、被験者の数を増やして大々的に調べる必要があると研究の著者は結びに書いている。しかし、アメリカを始め、日本、ヨーロッパ諸国でもLSDなどの幻覚剤の使用が認められていないため、なかなかそのような研究を行えないのが現状だという。
A Single Psychedelic Drug Trip Can Change Your Personality for Years (Live Science)