天文学の世界に2015年の重力波の検出以来の大発見が起きた。宇宙最初の恒星たちからのシグナルが観測されたほか、そこからはダーク・マターの新証拠の可能性も見えてきた。
太古の恒星の存在は、望遠鏡で観測することはできない。しかし唯一可能なのが、その痕跡となる宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の変化の観測だ。意外にも、観測に使われたのはテーブルサイズの小さなラジオアンテナだ。この帯域はFM局とも被るため、観測に使われた場所は地上で最も静かな西オーストラリアの砂漠。こうして観測され、1年にもわたる入念な確認の後に、天文学の新たな大発見が2月28日のネイチャーで発表された。
宇宙マイクロ波背景放射
新発見を説明する前に、その背景となる物事も少し説明しておこう。CMB(宇宙マイクロ波背景放射)は、絶えず宇宙の全方向から同じ波長、同じ強度で飛んでくる電波だ。これは1965年にアメリカのベル研究所に勤めるペンジアスとウィルソンらにより偶然発見された電波だ。これはジョージ・ガモフの唱えていたこれはビッグバンの名残の電波とされ、これがビッグバンの観測的証拠となったことで、ペンジアスとウィルソンは1978年にノーベル賞を受賞している。
そんなCMBは元々は光子だったとされる。宇宙誕生から38万年の後、それまで不透明かつ超高温な状態だった宇宙が、膨張により晴れ上がった。これにより、それまで光子が電子に阻害され直進出来なかったのが、膨張により電子が原子核と結合し原子となることで、自由に移動出来るようになった。こうして光子が宇宙を飛び交っていたのが、光の波長が膨張により引き延ばされ、マイクロ波であるCMBとなったのだ。

最初の恒星たちからのシグナル
ビッグバンが起きてから暫くした後、最初の恒星たちが誕生した。そのとき、宇宙最初の恒星たちが生まれた紫外線放射が、当時宇宙を占めていた水素からなる星間雲の水素原子の電子スピン状態を変化させた。これが宇宙の背景放射を一部吸収し、CMBにゆがみを生んだはずだ、と天文学者たちは考えた。これが今から20年前のことである。
それが観測出来るのは200Mhz以下の帯域であると考えられたが、地上を飛び交うラジオ局からの電波もその波長だし、加えて天の川からもその帯域の電波が放たれている。そのためこれを検出するのは難しいとされた。しかし今回の研究では、電波が静かなオーストラリアの砂漠で、前述の小さなラジオアンテナ=電波望遠鏡を用いて、78Mhz帯周囲でこれを観測する事に成功したのだ。
とは言っても実際の観測は2015~2016年にかけて行われたもの。それが今になって発表されたのは、これが他の理由で発生した電波ではないことを確認するなどに時間を要したためだ。これを確認するために、別のアンテナを使ったり、方向を変えるなど、様々な試みが行われた。それでもこのゆがみが観測されたことから、これが探していた宇宙最初の恒星たちからのシグナルであることが確認されたというわけだ。
そしてこのシグナルからは、最初の恒星たちが生まれたのはビッグバンの1.8億年後であることが判明した。恒星の誕生時期を特定する事が出来たというのはそれだけでも凄い発見だが、この研究からはもう一つ重要なことが判明している。

暗黒物質/ダーク・マター
面白いことに、観測されたシグナルは研究者たちが考えていたより2倍も強いものだった。その理由としては、シグナルが生じた当時の水素ガスが予想よりもかなり冷たかったからではないかと考えられた。そしてそれを引き起こす要因が、冷たい暗黒物質「ダーク・マター」だと推測された。ダーク・マターが水素原子にぶつかることで原子を冷やしたというわけだ。
宇宙の構成要素の6割を占めるとされながらも未だ何者か判明していないこのダーク・マター。銀河の回転が、観測可能な星々とはつじつまの合わない動きをしていることなどから間接的に存在が明らかになっているもので、現在では未発見の素粒子ではないかとされている。
これまでダーク・マターの観測は重力との作用のなかからしか観られていなかった。もしもダーク・マターが水素原子にぶつかりこれを冷やしたのであれば、これはダーク・マターが重力以外のものに作用したことを示す初の証拠となる。そして、未だ謎の多いダーク・マターの性質を理解するうえでも大きな発見となるのだ。
An absorption profile centred at 78 megahertz in the sky-averaged spectrum(Nature)