死のプロセスが明らかに…脳内に広がる死の波、人間に初めて確認される

人が死ぬ時、脳内にどのような変化が起こるかを詳細に記録した研究が学術誌『Annals of Neurology』2月号に掲載された。

それによれば、心肺停止により脳への酸素の供給が止まると脳はまず脳細胞の活動を一斉に停止することで「緊縮政策」を図り、その後数分間にわたって消費エネルギー量を最低限に抑えながら自らを保つ。しかし、とうとうそのエネルギー源も尽きてしまうと脳細胞の脱分極が始まり、もはや復帰不能となって波が広がるように次々と死んでいくそうだ。「緊縮政策」の段階であれば適切な措置による蘇生が可能かもしれないそうで、今後新たな医療介入に期待がかかる。 

死の波

死にゆく脳内でなにが起こっているのかを解明するために、これまで動物を使って様々な実験が行われてきた。死に直面した脳に見られる「拡散する機能低下(spreading depression of activity)」を初めて発表したのはリオデジャネイロ連邦大学のレオン教授だった。ウサギの脳を使った1947年の実験では、脳細胞がダメージを受けるとそこから脳細胞の機能停止の波が脳全体に拡散されることが確認された。

その後も動物の脳を使った実験が行われ、2011年にはオランダ・ラドバウド大学のクーネン教授がネズミの脳を使ったより詳細な研究を発表した。クーネン教授は、死にゆくネズミの脳波が途絶えた約一分後に、再び振幅の大きい脳波を一度だけ確認した。「死の波(wave of death)」と名づけられたこの現象は、脳細胞の網膜の内外の分極が一斉に失われる瞬間であり、生と死の究極の境目であるとされた。

死のプロセス

クーネン教授の研究によって明らかにされたのは、「死」は瞬間的ではなく、むしろ一連のプロセスだということだ。

ZME Scienceによれば、脳は常に大量の酸素とエネルギーを使って細胞の網膜の内外をマイナスに、外側をプラスに維持し、この分極性を利用して電気信号をつくりだして思考や感情や記憶を細胞同士に伝達し合ってている。心臓が止まり、肺が呼吸を停止すると、脳細胞への酸素の供給が途絶えてしまい脳細胞は一斉に活動を停止して「緊縮政策」をとる。電気信号の伝達を完全に停止して死んだようになることで、なるべくエネルギーを温存しつつ細胞の分極性を保とうとするのだ。

しかしこの時点ではまだ死んでしまったわけではない。やがて細胞に蓄えられていたエネルギー源さえも失ってしまうと、分極性のホメオスタシスが失われ、細胞は再起不能な本当の死を迎える。これが波にように脳全体に行き渡る「死の波」後は、たとえ酸素やエネルギーを供給しても脳細胞は蘇生できないことが、動物の脳を使って確認された。

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人の死

人間の場合ではどうなのか。言うまでもなく、そう簡単に死にゆく人の脳を観察できないのだが、今回ドイツのシャリテ大学病院とアメリカのシンシナティ大学が共同研究により、再起不能な脳死状態におかれた患者9名の脳が生命維持装置を外された瞬間からどのような変化をきたすのかが詳細に記録された。人間の脳を直接観察したのはこれが初めてだという。

患者の中には動脈瘤性くも膜下出血と診断された女性3名、脳卒中で倒れた男性、交通事故に遭った男性、電車と衝突した車に乗っていた男性、また銃弾が脳を貫通した男性も含まれていた。それぞれが介入的な医療を必要としていたため、あらかじめ脳波を測定する電極を脳皮質に装着していた。

生命維持装置を外された後、心配停止に伴い脳内は貧血状態になり、脳細胞が一斉に活動を停止する様子が確認された。平均して23分後に心肺停止の状態が確認され、さらに平均して33分後に脳の活動停止も確認された。

蘇生の可能性

初めて人間の脳を観察した研究により、人間も動物の脳もほぼ同じ死のプロセスを迎えることが確認された。そして、心肺停止から脳が活動を停止する間に、適切な処置を行えば脳の機能を再生できるかもしれない可能性も示された。

一度しかない人生の終わり方もまた一度しかない。その時がくるまではどのような死を遂げるのかわからないし、不安も大きい。しかし、死という究極のプロセスが、科学の力ですこしずつ解明されつつあるのも事実だ。

Terminal spreading depolarization and electrical silence in death of human cerebral cortex (Annals of Neurology)

Further Observations on the Spreading Depression of Activity in the Cerebral Cortex (Journal of Neurophysiology)

Decapitation in Rats: Latency to Unconsciousness and the ‘Wave of Death’ (PLOS One)

Death creeps through the brain as a “spreading wave” of silence and inactivity (ZME Science)

Brain May Live on After Decapitation (Live Science)