どうやら人間には研究者も驚くスーパーヒーローのような能力を得ることも可能なようだ。人間にはコウモリのように音の反響で周囲の環境を認識する「反響定位」が可能だということが判明した。
クリック音による反響定位
盲目の8人の人々が対象となり反響定位の実験が行われ、その結果が2月28日にThe Royal Societyに発表されている。研究によればこの8人は「反響測定のエキスパート」であり、口から舌を打つなどしてクリック音を出すことで、周囲を識別できるという人たちだ。
研究では、対象者たちがノイズから遮断された部屋に立ち、頭はまっすぐ前を向いた状態で、その部屋に用意された17.5cmの円盤状の木材を認識するという実験が行われた。木材を対象者の正面100cmの距離に置き、識別してもらったところ、100%の精度でこれが認識された。これは同じ距離で対象者の顔に対して木材の位置する角度を縦方向に変化させて試しても変わらなかった。認識までに放つクリック音は1回から5回、クリック音の音量は平均的な会話の音量と同じ74から76デシベルであった。
しかし木材の位置が対象者の後方にあると、その精度は落ちた。体に対して135度、対象者の後ろに木材がある場合精度は80%となり、要するクリック数も8から10回、音量も約80デシベルに上がった。真後ろに木材がある場合は精度が50%となり、クリック数は9から12回、音量は84デシベルほどとなった。
研究者も驚くその能力
研究者たちはこのほか、対象者の耳にマイクも付けて、彼らの耳に入ってくる反響音も録音した。これにより判明したのは、彼らは口から放たれたクリック音と比べて反響した音の強度(intensity)が95%まで「柔らかく」なった反響音まで認識できたということ。これまでの研究では、人間の耳はこの反響音の強度が80%までなら聞き分けられるとされていたので、対象となった人たちはそれだけ敏感になっているようで、研究者たちを驚かせている。また、反響定位での物体認識にかかる速度は100ミリ秒から数秒までと素早いことも驚くべきことだ。
この反響定位の能力を可能にする脳の仕組みは未だよくわかっていないが、研究対象となった人の中には自らこの能力を習得していることから、研究者はこれは視覚や触覚と基本的には同じ仕組みだろうとしている。
スーパーパワー
なお、この実験では頭の位置をまっすぐな状態で行っているが、実際の生活の中で彼らが反響定位の能力を用いるときには、左右に頭を動かして、複数の方向にクリック音を放つことで周囲の環境を把握する。BBCの記事ではこのような反響定位の可能な者の中でも能力が高いことでも有名で、反響定位能力により盲目の人がより活動的になってもらおうというNPO「ワールド・アクセス・フォー・ザ・ブラインド」(World Access for the Blind)の創設者でもあるダニエル・キッシュ(Daniel Kish)が動画で彼の能力を見せる様子を公開している。動画の中でキッシュは、公園で遊具を形容したり、公園の柵の向こうにある低木や高い木、さらに離れたところにある柵の様子を形容したりしている。
アメリカのコミックス『デアデビル』は、幼い頃に盲目となったものの聴覚が敏感になった人物を主人公にしたスーパーヒーロー作品で、主人公が音の反響を利用して周囲環境を把握し、悪と戦う様子が視覚効果により描かれていた。今回の実験で、あながちその形容も間違いではなかったことが証明されたようだ。
How humans echolocate ‘like bats’(BBC)