孤独な少女がハマった音楽「ホラーコア」が呼び寄せた残酷な事件とは

親は我が子が成長するにつれて、いわゆる「反抗期」に頭を悩ませることになる。何度も子どもと衝突を繰り返すうちに、もし「もう好きにやらせてやるか」などと諦めを含んだ感情を抱いてしまったとしたら、2008年に起こった「ファームビル殺人事件」を思い出してほしい。

バージニア州ファームビルという田舎町に住む16歳の少女、エマ・ニーダーブロックは14歳のときに両親が離婚してしまい、心に深い傷を負っていた。高校生活には馴染めず、自宅学習することになったエマだったが、徐々に言動が反抗的に変わっていき、服装もメイクも派手になっていった。

彼女が入れ込んだ音楽は「ホラーコア」と呼ばれるヒップホップの1ジャンルで、死や性的暴力を美化した歌詞、そして奇抜なメイクが特徴だ。彼女は孤独だったからこそ、自身の苦悩と重ね合わせるようにホラーコアにハマってしまったのだろう。

しかしファームビルにホラーコアを好きな人間などいるはずもなく、エマはネットを介して仲間と交流するようになる。そこでは“Ragdol”と名乗り、人気アーティストのシックとラズとも親交を深めた。

するとラズは孤独な彼女を気遣い、ウエストバージニア州に住むファンの1人であるメラニー・ウェルズをエマに紹介。過激なホラーコアを愛するメラニーこと“Mel”とエマは意気投合し、すぐ親友になった。さらにラズは、エマの音楽への熱狂ぶりを紹介するため動画をファンに公開。ファンたちの間で有名になったエマだったが、これが“悲劇への片道切符”を手にした瞬間だった。

カリフォルニアのラッパー志望のサム、通称“Syko Sam”は人気者のエマに繰り返しアプローチをかけ、2人はネット上で愛を育んだ。そしてホラーコアのイベントでついに2人はリアルで会う約束をする。エマの両親も離婚後の娘の楽しみが音楽であることを理解していたため、自分たちの同行を条件にサムと会うことにOKを出した。

「会うのが楽しみ。愛してる」……情熱的なメッセージを交わし合っていた2人だったが、エマはネットにおける出会いの不条理を知ることになる。現実世界のサムは想像からほど遠い人物だったのだ。エマはすっかり熱が冷めてしまい、コンサートでもサムと打ち解けることはなかったが、エマと母親の住む家にメラニーとともに泊めるという約束だけは守ることにした。

その翌日、メラニーの兄が電話を掛けるも何故か留守電に。最初は楽観的にとらえていた家族だが、エマとサムとも連絡が取れないことで徐々に不安を募らせる。話を聞いたラズとシックも「3人から連絡があったら教えて」とファンに訴えるなど、安否の確認に協力した。

そしてメラニーの母キャサリンがエマの家に電話を掛けると、なぜか受話器を取ったのはサムだった。「皆はエマの父マークに会いに行っている」というサムの言葉を確認するためにマークに連絡を取るが、彼もエマたちと会っていないことが判明。さらにエマのもとへ車を走らせたマークもその後、消息を絶ってしまう。

最悪の結末を最初に知ったのはラズだった。サムの友人からの電話を受け取った彼女は床に崩れ落ち「最悪よ、ひどすぎるわ」と漏らしたという。それは「サムが『皆を殺した』と話した」という最悪の報告だった。すぐさまシックが警察に通報したが、エマの自宅からは彼女とその両親、メラニーの4人の遺体が……。

サムは逮捕され、死刑に直面すると司法取引を行い殺人の詳細を語り出した。エマに拒絶されたと感じたサムは、酒と大麻と処方された薬を一気にあおり、斧を使ってまず3人を殺した後、訪ねてきたマークを殺害したという。結果的にマークをエマの家に送り出してしまったキャサリンは責任を感じ「彼の犯行を考えると夜も眠れません」と辛い心情を吐露している。

現在、サム・マクロスキーは仮釈放なしの終身刑で、重警備の連邦刑務所に収監されている。ネット上の関係はまやかしだらけで、お互い良いところだけを見せ合うもの。子どものスマホやメールの内容をのぞき込む行為は本人たちから非難されるだろうが、親たちは子の命を守るために、あらゆることから目を離してはいけない。

RELATED POST