Credit : AGO NGA NU-ACCESS

ピカソの傑作に隠された下絵、新技術により明らかに

蛍光X線分光法という新技術により、若きピカソが「青の時代」に描いた絵画の下絵が2層発見された。2018年2月17日(現地時間)に行われたアメリカ科学振興学会の年次総会にて、カナダとアメリカの研究者が共同で発表した。 

ピカソが悩みあがいた「青の時代」

新たに下絵が見つかったのはピカソが20歳の時に描いたとされる『La Miséreuse Accroupie(直訳:うずくまる貧困層者)』(1902)。ピカソは前年に生まれ故郷のスペインを離れ、パリにアトリエを構えたばかりだった。経済的に不安を抱えたピカソに追い打ちをかけたのは親友のカルロス・カサヘマスの死―。それ以降、数年に渡ってうつ病と戦いながら、ピカソは社会的弱者に寄り添って彼らの姿を青く暗い色彩に塗りこめた。

貧しかった「青の時代」を象徴するかのように、当時の彼の絵はまったく別の絵が描かれたキャンバスを再利用したものが多かった。『うずくまる貧困層者』もそのひとつで、1990年代に収蔵先のオンタリオ美術館でX線検査が行われたところ、縦長の絵の下に横長の風景画が隠されていることがわかった。

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背景の絵を意識してのことか、ピカソが描いたしゃがみ込む女性の背中は山の稜線と一部重なっている。

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さらに今回、蛍光X線分光法という技術を用いて隠された下絵を調査した結果、再利用された風景画と現在の絵との間にもう一枚の下書きと見られる別の絵の層が発見された。現存の絵では懐に隠されている右手がお皿のようなものを持っているのが確認され、同時期に描かれた水彩画と酷似していることもわかった。

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蛍光X線分光法とは、X線を絵に照射して、絵具に含まれている元素(カドミウム、クロミアムなど)の原子の電子を励起して不安定な状態に置く。電子が安定状態に戻る時、それぞれの元素に固有の波長をもった蛍光X線を観測することによって、絵を傷つけることなくどのような絵具が含まれているかを調べる方法だ。これにより、ピカソの絵のいわば変更履歴を可視化できる。 

戦火を免れたピカソの彫刻

研究者たちはさらに今まで一度も科学的な検証が行われていないピカソのブロンズ彫刻作品39点についても同様に蛍光X線分光法を用いて調べた結果、第二次世界大戦下で金属が手に入らなかった時代にピカソがあらゆる工夫を凝らして彫刻に挑んでいた姿も浮き彫りになったそうだ。

調査に携わったシカゴ美術館所属のフランチェスカ・カサディオ氏によれば、ピカソが彫刻制作に余念がなかった1940年代、彼が住んでいたパリはドイツ軍の占領下にあった。戦争のために金属が次々とドイツ軍に略奪され、多くの鋳造工場は廃業に追い込まれてしまった。

それでもピカソが彫刻に固執したのは、彼にとって彫刻は個人的な価値が高いものだったからだそうだ。自身のアトリエも戦火にさらされて、彫刻の型が燃えて消えてしまうことを恐れたピカソは、複数の闇の鋳造工場に依頼して銅、錫、亜鉛と鉛を混ぜた「ブロンズ」作品を作らせた。今回の調査により、作品の一部には銀も使われていたことも判明したという。

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同時期のほかの絵画にも下絵が

ピカソの絵にはこれまでもいくつか別の絵が発見されてきた。『Woman Ironing(アイロンする女)』と『The Blue Room(青い部屋)』にはそれぞれひげをたくわえた紳士の肖像が塗りこめられており、『The Guitar Man(ギターの男)』の下絵はピカソの別の絵の断片や、別の構図で描かれたギターの男が浮き彫りにされてきた。

これらの絵はすべて「青い時代」に描かれた。売れなくても陰惨な絵を描き続けた貧困のなかで、ピカソがいかに限られた資源を繰り返し使ったか、そして若きピカソの創造過程を物語っている。

Scientists find hidden artwork beneath one of Picasso’s ‘Blue Period’ paintings (ZME Science)
La Miséreuse Accroupie (Northwestern University)
Imaging Techniques Reveal Picasso’s Hidden History (American Association for the Advancement of Science)
Hidden painting found under Picasso’s The Blue Room (BBC News)
Under One Picasso, Another (The New York Times)
Research Team Uncovers Hidden Details in Picasso Blue Period Painting (Northwestern University)
X-Radiography (Art Institute of Chicago)
The Life of Pablo Picasso (Musée Picasso Paris)

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