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正しい催眠学習法なら記憶を選択的に強化できる

深く眠っているときに記憶を活性化させると、最近覚えた知識をよりしっかりと覚えられることが米ノースウェスタン大学の研究者などによって解明されつつある。

就寝時に記憶を活性化させる方法としては、香りや音と記憶を連携するなどいろいろ実験されているが、鍵となるのは「徐波睡眠」と呼ばれる深い眠り。徐波睡眠時に特定の記憶と結びついた香りをかいだり、音を聞いたりすると、脳がその記憶を復習することでより記憶が強化されるそうだ。 

バラの香りに包まれて

2007年にドイツのリューベック大学で行われた先駆的な研究では、被験者が神経衰弱のゲームのように物の位置関係を覚えるタスクに取り組んでいる間にバラの香りをかがせた。タスク終了後、被験者には実験室に用意されたベッドで睡眠をとってもらったのだが、徐波睡眠に入った時だけ同じバラの香りをかがせたという。

すると、起床後に再度タスクに挑んだ結果、被験者の記憶力が向上していたそうだ。起きている時だけバラの香りをかいだり、レム睡眠時にバラの香りをかいでも同じ効果はみられなかったという。

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この研究を皮切りに、様々な感覚と記憶とを結びつけて就寝時に強化する実験が行われた。アメリカのノースウェスタン大学では被験者がリューベックの実験のような記憶ゲームを覚える際に、猫の絵には猫の鳴き声、やかんの絵にはやかんが沸騰する音、というようにそれぞれの記憶に別の音を結びつけた。そして睡眠時に猫の鳴き声だけを聞かせると、猫の絵の記憶のほうがより強化されたそうだ。

このように特定の記憶を強化することをTargeted Memory Activation(記憶の選択的活性化)と呼ぶそうだ。猫の鳴き声を聞くことで猫の絵がどこにあったかを覚える過程が思い出され、記憶を復習することでより記憶が強化されるという。

TMAの領域はまだまだ広がっている。最近ではメロディーを記憶したり、言葉そのものを覚える実験も行われている。ピンポイントで記憶を強化できたら、それこそ受験や大事なプレゼンテーションに大いに役立つのではないだろうか。ただし、あくまで起きているときに学習した知識が記憶として強化されるのであって、寝ている間に新しい記憶が植えつけられるわけではないことに留意したい。 

「睡眠学習」の汚名

そもそも睡眠学習の名が知れ渡った1920年代は、記憶の形成はおろか、脳の働きすら理解されていない時代だった。当時は睡眠中の脳は催眠状態にあると信じられていて、アメリカが発端となり「睡眠学習器」がブームになった。学習したい内容を吹きこんだテープを寝ながら聞くだけで新しい言語を覚えたり、自分に自信を持てるようになったりと、手軽に自己実現できる夢のような機械のはずだったのだが、残念ながら科学的な根拠がないため効果はなかった。

技術の進展に伴いようやく1990年代に脳のメカニズムが解明され始め、今では記憶についていくつかわかってきている。記憶は脳の大脳皮質に貯蔵されるが、大脳皮質は比較的成長が遅い。そこで、海馬が一時的な記憶の貯蔵庫のような役割を持っている。ここに蓄積された新しい記憶は、徐波睡眠時に復習されるそうだ。

人の脳は眠っている間にその日に覚えたことを反芻し、記憶に刻み込む準備をしているのだ。徐波睡眠はノンレム睡眠の一種で、眠りの一番深い時に起きる。充分な睡眠時間を確保していないと、せっかく覚えたことも脳にしっかり定着してくれない可能性もある。

2009年に発表された経済協力開発機構の調査レポートによれば、日本人の平均睡眠時間は一日7時間50分で、韓国に次いでの少なさだ。

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充分な睡眠をとることがいかに大事か。そしてその貴重な睡眠時間を削ってまで明日のプレゼンで頭をいっぱいにする必要があるのか。改めて考えさせられる。

How sound and smell cues can enhance learning while you sleep (Aeon)
Night School (Aeon)
Vocabulary learning benefits from REM after slow-wave sleep (Neurobiology of Learning and Memory)
Society at a Glance 2009 (OECD)

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