Credit : Yohta Kataoka

【野良山伏 連載】第15回  野糞

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

山伏の世界に足を踏み入れて十数年。千葉の住宅街で生まれ育った自分ですが、出羽三山の深い森の中で滝に打たれたり、草木や生き物をとって食べたり、草薮の隙間で卵を温めている鴨をみつけて孵化するのを見守ったり、大きなツキノワグマに威嚇されて驚いたりして、自然のいろいろを体験することができました。奥深い世界なので、まだまだその一端に触れることができただけですが、そのなかでも印象深かった出来事があります。

それは山の中でした「野糞」です。

ある夏の日、照りつける強い日差しのもと、僕は月山の山頂から山道を下っていました。多くの登山客が通るような道ではなく、油断すると迷子になってしまうような険しい藪の道でした。

夏の時期は、水が流れるところにミズと呼ばれる山菜が生えます。少しヌメリがありつつもシャキシャキとした食感がして、とてもおいしく大好きな山菜で、それを食べながら、数日間、山の中で過ごしていました。

歩いていると、お腹の下の方に張りを感じてきました。トイレがあるところまで下山するには8時間は歩かなければならない場所でした。

やがて藪を抜け、開けた湿地帯に出たところで、僕はいそいそと登山道から離れて山伏装束を解いてしゃがみこみ、ブリブリブリっとふんばりました。

視界には雄大な月山と、夏独特の湿気を帯びた風が上昇気流となり雲を運んでいます。自然の中にポツネンと置かれた寂しさと、他には誰もいない開放感が相まって、とても爽快でした。

Credit: Daizaburo Sakamoto – 最中に撮影した風景

そして、その瞬間。僕はハッと息を飲みました。お尻の下にあるウンコにたくさんの虫が群がってきて、それを食べようとしていたのです。

「山が僕(のウンコ)を食べている」

山で採ったものを食べ、山の中で排泄をして、虫や微生物など、山の生き物たちがそれを食べ、分解していく。そのとき、僕は自分が自然の中に溶けていったように思えました。

現代は自然と人のつながりが薄くなり、「死」というものが社会から目に見えない場所に排除され追いやられてしまう傾向があります。とくに街にいるときらびやかでイキイキとしたものばかりが目につきます。しかし生き物というのは必ず「死」を伴っている存在なので、表面的には整ったきれいな社会でも、どこか違和感を持ってしまうところがあります。

かつての社会では人は死んだら里から近い山に宿り、長い年月をかけて高い山に登り神仏になっていくと考える地域が多くあり、死を弔い毎年の供養をおこなう、死を自然の中に分解していく役割を山伏たちが担っていました。今は、虫や微生物のような分解者としての山伏たちは姿を消し、ウンコにおいては小さな生き物に分解されることなく、レバーをひねればどこかに流されていく世の中となっています。

もちろん糞尿を街に放置すれば不衛生となり、伝染病の原因ともなりかねないので、下水処理施設はなくてはならないものです。どこかに流されていってしまうというのも、普段意識しないだけで、誰かが下水の処理をやってくれているということなので、深く感謝をしなければいけませんし、文明というものは後戻りができない性質があると思いますので、文明批判をして「昔に戻れ!」といったことは考えていませんが、僕は自然が好きなので、自然と人の距離が開いていく傾向がある社会の中で、どうやってそのつながりを保っていけるのかに関心があります。その象徴が、僕にとっては「野糞」だったというわけです。

子供の頃からお腹がゆるくて、ウンコを漏らしたり、我慢できずに野糞をしたこともありましたが、月山でした野糞のような感覚を持ったことはありませんでした。

僕にとっては山伏文化を通して、はじめて気づくことができた野糞のよろこびだったのかもしれません。

ここまで読んで、私も大自然の中で野糞をしてみたいと思った方のために、何年か試行錯誤して考えた、僕の野糞の作法を記したいと思います。

まず、山に行くときには水を入れたペットボトルを持ちます。これは飲むためではなく、拭くためのものです。ウンコをするのは、崖などの危険な場所を避けて、足場の良い場所を選びます。そしてスコップなどで穴を掘り、そこに用を足します。お尻を拭く際は紙を使わず、まずホウの葉などの柔らかくて、かぶれない葉を用いて、汚れを拭い、それからペットボトルの水で肛門をきれいにします。

最後にウンコに土をかけて終わりです。

このとき、丸出しのおしりが虫に食われて大変なことになりかねませんので、携帯用の蚊取り線香などの虫除けもお忘れなく。

また、大丈夫だとは思いますが、街中など、人に迷惑がかかりそうな場所ではやりませんように。ダメ、ゼッタイ、です。

Illustration: Daizaburo Sakamoto

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【プロフィール】坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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