Credit : Yohta Kataoka

【野良山伏 連載】第14回 ナマハゲと秘祭

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

大晦日に秋田県の男鹿半島にある真山神社麓の真山地区でナマハゲをみてきました。

奇祭としてとても有名なナマハゲですが、その由来は謎とされていて、もともとは山伏だったとか、ロシア人だったとか、よく分かっていません。

僕は真山地区のナマハゲをみてきましたが、ナマハゲは男鹿半島の多くの地域でおこなわれており、その内容もすこしずつ違います。真山地区ではナマハゲ役を地元の青年会が担っていましたが、近年は担い手不足で存続があやぶまれているところも多いのだそうです。

ナマハゲのことは日本で暮らしている多くの人が知っていると思いますが、案外、いつおこなわれているのか、誰がおこなっているのかなど、詳しいことは知らないということが多いようです。

ナマハゲは大晦日の日没後におこなわれている行事で、今回、受け入れていただいたのは真山地区青年会員で、近所で「里山カフェにぎぎ」というカフェ兼民宿を経営している猿田さんでした。近年は旅行代理店が企画したナマハゲツアーなどもあるそうで、受け入れてくれる民家で、ナマハゲをみるという観光商品が人気になっているのだそうです。僕は取材として申し込んだので、ナマハゲや青年団と一緒に集落をまわり、裏側をみせて頂きました。

当日、僕は山形から車で秋田に向かいました。東北といえども男鹿半島は海が近いので、海風に飛ばされて、それほど雪は積もっていませんでした。ただ低気圧が居座っていたので風が冷たく、厚い雲が流されていき、時折差し込む日の光が日本海に反射し、それはキラキラとしてきれいでした。

お昼すぎには「にぎぎ」に到着し、「青年会は夕方4時ごろに公民館に集まってますので、それくらいの時間から準備が始まります。」と猿田さんに教えてもらいました。

公民館に行くと、青年会と、他に取材で来たという人たちが集まっていました。なかにはフランスから取材に来たという男女ペアもいます。

公民館には、すでにナマハゲのお面が4枚置かれており、その前にお膳が供えられていました。黒豆や煮物類と共に焼き魚もあります。通常はハタハタが使われるそうですが、今年は不漁だったので、手に入った適当な魚にしているとのことでした。

しばらく青年団たちは酒を飲みながらダラダラとしていましたが、あたりが暗くなってきた頃、「そろそろはじめっか」と、ナマハゲの装束をつけはじめました。

身体につけるワラで編んだものは「ケデ」と呼ばれていました。10人ほどいた青年団の中の4人がケデを着けて、お膳の前に座ります。まだ面は着けておらず、ナマハゲ伝承会の会長が一枚ずつ面を持つと、日本酒を口に含み「プッ」と吹きかけ、4人に渡していきます。やがて4人は部屋から出ていき、しばらくすると「ウォー」という叫び声と、壁や戸を激しく叩く音が聞こえてきて、変身した4体のナマハゲが登場しました。ここからナマハゲと主人(公民館では伝承会の会長)との問答が始まりますが、僕のわからない秋田弁であったため、おおよそを標準語で述べたいと思います。

「ナマハゲさん、今年もようこそお越しになってくれました。まずは座ってください。」主人からそう言われると、ナマハゲは7回四股を踏んでから着座します。

「オヤジ、今年の作はどうだった?」とナマハゲが尋ねると、「おかげで良い作でした」と主人が答えます。

「子供はいい子にして、ちゃんと勉強してるか?」とナマハゲ。

「うちの子供は勉強をさぼらないで、親の手伝いもしてくれるいい子です。」と主人。

「ほんとか、テレビゲームばっかりしてるんじゃないのか、山の上からちゃんと見てるぞ!!」とナマハゲは子供を脅します。

大体このように話が進んでいきますが、お互いにそのときのアドリブで、話は変わっていき、笑い話になっていく……といった内容でした。

Credit:Daizaburo Sakamoto

ちなみに猿田さんの家には小学校にあがる年頃の子供がいて、普段はひとときも静かな瞬間がないやんちゃ者で、ナマハゲもへっちゃらといった態度だったので、「やっぱり地元の子は毎年のことだから慣れていて怖くないんだな」と思っていましたが、ナマハゲに脅されて大泣きしていました。やっぱり子供にナマハゲは怖い存在のようです。

僕がこのようにナマハゲに関心を持つようになったのは、昨年の夏に八重山諸島でおこなわれている祭りをみてからでした。石垣島や西表島などではアカマタ・クロマタという聖なる存在があらわれる祭りがあります。この祭りは部外者立ち入り禁止の秘祭であり、それを隠し撮りしたり、不届きなおこないをした者は酷い目にあわされるといいます。

昨年、その祭りをみる機会があり、詳しいことは述べられませんが、ナマハゲとアカマタ・クロマタの姿や、それを担っているのが青年会であったり、地元の若者たちであることなど共通点が多くあり、興味を持ったのでした。またこういった若者が祭りを担い、ある種の成人儀礼を伴っている風習は、山形の山伏文化とも共通するところです。

先史時代から日本列島には北や南や大陸からたくさんの人がやってきました。たとえば僕たちが普段食べている食べ物の中で、里芋は東南アジアから先史時代に日本列島に入ってきた人が持ってきたという説があり、人の流れを考えれば、八重山諸島の仮面祭りが、東北と共通するということが可能性としてはゼロではありません。

寒い東北でおこなわれていて、いかにも日本的な祭りだとばかり思っていたナマハゲが、意外にも遠い南の島とつながりがあって、それが食べ物や文化とも関係があるかもしれない。そう考えると僕はとても楽しいと感じます。

Illustration: Daizaburo Sakamoto

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【プロフィール】坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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