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【野良山伏 連載】第12回 樹皮のパソコンケース

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

 

山で暮らす人たちは、獣、植物、石など様々な素材を使って生活に役立つモノを作ってきました。中でも僕が好きなものは樹皮で作られた容れ物です。樹皮で作られたポシェットが古くは五千年前の地層から出土しており、縄文人も樹皮製品を使っていたことがわかっています。今でも東北の山間部のお年寄りたちは樹皮を採ってきて、カゴなどの容れ物を作ったり、細かく裂いて糸にして布を織ったり、暮らしに役立つ道具を作っていますが、それが縄文時代から受け継がれてきた知恵や技術だと考えると、ちょっとすごいです。

そんな古くから伝えられた文化を継承していく人がどんどん少なくなってきている今日この頃ですが、東京のデパートなどでは、東北で作られた生活用具が高い値段で売られています。近年ではアケビやヤマブドウのツルを使ったカゴが特に人気で、数万円の値がついていることも珍しくありません。

アケビの方が少し安くて、ヤマブドウの方が高い場合が多く、その訳は実際にツルを採ってみて理解することができました。

アケビのツルは地面を這っているものを使うのですが、ヤマブドウの場合は高い木に絡んでいて、それを採るためには4〜5メートルはあるような木に登らなければなりません。高い木の上でツルを切る作業は足場が不安定で、ツルも切りやすいように生えているわけではないので、手を伸ばしてノコギリを動かしているうちに、手元が滑ってノコギリを落としてしまうことがあります。落とした道具を取るために何度も木を登り返すのは精神的にダメージが大きく何倍も疲れてしまいます。

道具を落とすのは僕が間抜けであることに大きな要因がありますが、木の上での作業は危険なので「これが安かったらワリに合わないよな」と思いました。それにカゴを編む手間や、カゴを何年も使っているうちに身体に馴染んでいき、味が出て長持ちすることを考えれば、数万円という値段がむしろ安いのではないかと感じるようになりました。

こうした素材は一年中採れるわけではなく、植物によって採るのにふさわしい時期があります。例えば山形の山間部では、アケビを秋の始まりの頃に採り、ヤマブドウは夏の始まり頃です。

月山の長い冬が終わり、山菜採りがひと段落する6月下旬頃、東北にも梅雨がやってきます。僕の家の近くにはヤマブドウ、ヤマザクラ、オニグルミなどの樹皮製品によく使われる木々が生えていますが、森が湿気を含むこの季節の2〜3週間だけ、多くの種類の樹皮が剥がせるようになります。知り合いの山男に聞いたところ、夏の土用の丑の日までは樹皮が剥がせると言われているのだそうです。

世間がウナギウナギと騒がしい頃に、山の人たちの樹皮採りは終りを告げるというわけです。

ではどうやって樹皮を採るのかと言えば、僕がおこなっている方法は、まず片手で掴むには少し余るくらいの太さの枝を幹から落として、大体30センチくらいの長さに切り分けていきます。(幹を傷つけると、木が傷んでしまうので、どうしても伐採する必要がある場合をのぞいて、僕は枝の樹皮を使っています。)

そして切り分けた枝に縦方向の切り込みを入れます。その切り込みを指でめくっていくように力を入れると、ペリペリと樹皮が剥がすことができます。ただ切り込みを入れた反対側の部分は少し剥がれづらく、そんな時はトンカチで枝の切り口の部分を叩くと、振動で樹皮がズレるためか剥がれやすくなります。

採れた樹皮は乾くとかなり硬くなるのですが、湿っているうちは皮用の針を突き通すことができるくらい柔らかいので、僕はできるだけ早いうちに加工してしまうことにしています。また乾いてくると樹皮が巻いてくるので、小枝を縫い付けるなど補強して、形崩れしないような工夫が必要です。時間がないときは、サッと洗って汚れを落とし、陰干しして、加工する時にお湯や水に一晩漬け込めば、柔らかく戻すこともできます。

僕がはじめて樹皮採りをしたのは、ヤマザクラのものでしたが、ちょうどノートパソコンを買ったばかりだったので、その大きさに合わせた樹皮製のパソコンケースを作りました。もちろんパソコン以外のものも入れることができるので、今ではちょっとしたお出かけには欠かせません。

実は最近、以前使っていたものより少し大きいノートパソコンを買ったので、それに合わせた樹皮のケースを作ろうかと考えているところです。

Illustration: Daizaburo Sakamoto

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坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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