Credit : Yu Ando

フィンランドのコオロギパンを食べてみた!昆虫食解禁の裏側に迫る

コオロギパンに関する詳細はD-Newsの記事「フィンランドでコオロギパン販売開始!「カリカリと歯ごたえのよい生地」」にうまくまとめられているのでそちらをお読み戴くとして、この記事ではフィンランド在住の筆者がその背景と、コオロギパンを実際に食べてみた感想をご紹介しよう。

教育福祉やデザインで知られるフィンランドに急に「虫食」が出てきて驚いた方も多いかもしれないが、実はフィンランドでは数年前より虫食への関心は広がっていた。2015年には「taiteiden yö」というイベントでバッタを炒めたものが販売されたが、販売直前になって法律で虫を食品として販売することが禁止されていることが判明。そのためイベントでは「これは食用ではありません」という注意書きと共に販売されていた(しかし別にこれを買って食べることを積極的に止めていたわけではないので、当然ながら購入者の多くはこれを食用にしていた)。今年に入ってからも昆虫食を禁止する条例が廃止される前に、ピーナツと虫を炒めたおつまみ(下画像)を出したりするバーも存在した。

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しかし人気が高まる虫食の背景にあるのは「食肉」の与える環境への悪影響だ。人が食べるための肉を育てるには、まず植物をつくり、それを餌として動物を育てなければいけない。そのためには大きなエネルギーが浪費されるし、そもそも動物に植物を与えて育て、それを食べるよりも人間が植物を食べた方が多くの人が養える。動物の成長にはメタンガスも大量に出るし、これに加えて成長ホルモンを与えられたり、抗生物質を与えられた動物を食べることでの環境や人への悪影響もある。そして環境以外の面では世界保健機関WHOの述べるように肉食による人間への健康リスクもあるし、もちろん食用動物の飼育環境の劣悪さ、無理に成長させる飼育方法などの動物愛護の観点も存在する。

つまり、「食肉」をタンパク源として考えたときに、それは理論的に考えれば単純に優れていないのである。地球環境の観点、人の健康の観点、そして動物の観点からも。これら「食肉」に関する数々の問題により、フィンランドでは近年「非肉食」が話題になっていたわけである。それを受け、今では少なくともヘルシンキのレストランではどこへ行ってもベジタリアンメニューやヴィーガンメニューが見受けられるようになった。

「フィンランドのコオロギパン」の報道では、現代社会の中では奇抜に聞こえる「虫食」にばかり関心が集まりがちだが、その背後にあるのは「食肉にまつわる問題」であり、その解決策として提示されているものの一つが虫食なのである。もちろん「非食肉」のための方法は虫食だけでは無く、数々の「代替肉」(もしくは「肉以外のタンパク源」と言った方がいいかもしれない)もまた注目を集めている。日本でも購入することのできる大豆肉などもそれだし、イギリスのQuorn社が発売するキノコ(と卵の白身)から作った代替肉製品も人気だ。フィンランドの気候は寒すぎて大豆は生産できないので、より自国で生産できる素材を使った代替肉としてソラマメとオートを主材料にした「Nyhtökaura」は昨年の発売後暫くは店内に並べられても同日中に無くなり買うのが困難なほどの大人気だった。世界的に有名なファーストフードチェーンであるマクドナルドが、今年世界で初めてヴィーガン・バーガーである「McVegan」の販売実験先として選んだのがフィンランドのタンペレ市であったことも、フィンランドでの「非肉食」への関心の高さを表していると言えそうだ。

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そんな中で販売が始まったコオロギパン。流石の人気で夕方に店に行っても売れ切れ状態。平日の午前中に行ってようやく手に入れることができた。早速食べてみると…

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普通に雑穀パンの味だ。一本のパンに約70匹分のコオロギが使われてはいるものの、ひまわりの種やゴマ、ライ麦の種なども入っている。実はパン全体からすればたったの3%しかコオロギ成分が含まれていないのだ。そのため、見た目、匂い、味の、どの点においてもこれが普通のパンと違うことに気づきはしない。注意して見れば黒い粉が混ざっているように見え、それがもしかしたらコオロギなのかもしれないが、特に「コオロギ」らしさがあるわけではない。このパンに含まれているタンパク質は100g中11gで、そのうちコオロギからのタンパク質はその18%にあたる2g。ただ、単純にタンパク源として見た場合は、フィンランドで売られている他の穀物パンと比べても特段多いわけでなく、他にもタンパク質が11g含まれている穀物パンも存在する。

フィンランドでは戦時中に食料がなく木を食べていたという話は聞くが、寒い国ということもあって大きな虫もおらず、特に冬戦争中の話では食に困っても虫を食べたという話は聞いたことがない(極寒の地で越冬中の虫を探すのも困難だろう)。虫食が現代の食文化の中に現れたばかりで、効率的な活用方法はまだまだこれから、今はまだ実験段階といった感じもある。しかしそれと同時に、このコオロギパンは虫食に慣れていない人々に対して、虫食への抵抗感を下げるのにもってこいな食品だとも感じた。これまでに私が食べたことのある乾燥させたミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫で、釣り餌などに使われる)などは、一度食べてしまえば抵抗感が下がるものの、やはりその形状から最初の一口を食べるのにはかなりの抵抗感があった。

もちろん、現在も一般的に人の食べるタンパク質は加工されて、元の形をとどめていないものが多い。肉なども元の動物の姿をしていないし、大豆だって加工品が多い。その点、虫食が今後現代食文化で普遍的なものになるとしても、「イナゴの佃煮」や「はちのこ」などのようにそのままの形状を食べることはそこまで一般的にはならず、今回のイナゴパンのように一度粉状に加工してから食されるのではないだろうか。

日本では「ベジタリアン」や「ヴィーガン」などの「非食肉」に関する報道に、「ダイエットのため」、「健康のため」といった独りよがりな理由に焦点を当てた報道が多い。今回のフィンランドのコオロギパンが日本でも報道され、このように注目されていることで、日本の人々が従来の報道で提供されてきた物の見方に疑問を投げかけるようになれば、と望むのはコオロギにあまりにも期待しすぎだろうか。

【ライター】安藤 悠(あんどう ゆう) 

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