Credit : Yohta Kataoka

【野良山伏 連載】第10回 木の実を食べる

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。

山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

 

先日、実家がある千葉に数日滞在した際にドングリを拾ってきました。東京で暮らしていた20代の頃は、お腹が減ったけれどもお金がないという時には、よくドングリを食べ、腹の足しにしたものでした。都会でドングリが採りやすいのは公園などで、秋になって木の実が落ちる時期になると、側溝にはたくさんのドングリが落ちています。

ひと言でドングリと言っても一様ではなく、トチやカシ、シイなど木の実のことを僕たちは漠然とドングリだと思っている場合が多くあります。僕が狙っていたのはスダジイの実です。スダジイは公園や街路樹として植栽されていることが多く、比較的よく目にする樹木です。多くのドングリにはタンニンやサポニンという渋み成分が含まれていて、そのままでは食べにくく、アク抜きをしなければならないので少し面倒なのですが、それに比べてスダジイの実はそのままでも食用になるし、味もなかなかです。

Credit: ESA左がブナの実で、右がスダジイの実

スダジイの実を食べるためには、まず水に一晩浸けておきます。水に浮かぶ実は古いものだったり虫が喰っているものの場合があるので避けて、沈んだものだけを選びます。そのあとフライパンで炒れば、殻が割れてきて香ばしくもなり美味しく食べられます。

ドングリは縄文人の主食であったとも言います。縄文人は石皿と丸石でドングリをすり潰し、クッキーやハンバーグに料理していたのだとか。僕も縄文料理を食べてみたいと思い、自分でも作ってみました。

肉は鹿肉を使って、包丁で叩いて挽肉にしました。そこに同じく包丁で細かく粉砕したスダジイの実を混ぜ、卵を投入し練っていきました。それを塩で味付けしてフライパンで焼けば出来上がりです。

実際に食べてみると、「けっこうおいしいな」と感じました。次に炊いた米と一緒に食べてみると、ハンバーグの香ばしさが、米のもっちり感の中で不協和音を奏でているようで、何だかパサパサした食感が目立ってイマイチでした。その次にはパンに挟んで食べてみましたが、これが一番良い組み合わせのように思いました。ドングリハンバーグのパサパサ感を、パンのふっくらした食感が補い、香ばしさとも融合しています。パンを使っている時点で縄文からは離れてしまいましたが、ドングリの美味しい食べ方としての実験は成功でした。

スダジイの実を練りこんだハンバーグ

さて、関東で暮らしていた時は、スダジイなどのドングリが採れたのですが、現在暮らしている山形の月山にはスダジイは生えていません。そのかわりというわけではありませんが、東北の山間部で暮らした人たちは、凶作などに備えて栗を多く植えていたそうで、多くの山で栗を目にします。栗は縄文時代早期の遺跡からも検出されることから、日本列島で暮らした人たちにとっては古い付き合いの、とてもお世話になってきた食料と言えます。ホクホクの栗は現代の人にとってもおいしい食べ物です。一方、ドングリは縄文時代中期の遺跡から出土することが多く、そこにはアク抜き技術の確立があったのではないかと推測されています。

また数年に一度、ブナが実を付け豊作になり、山中がブナの実だらけになることがあります。最近だと3年前にブナの実が大豊作になり、僕はバケツ片手に山に入り、たくさんの実を採ってきました。
ブナの実は1センチに満たないほどの大きさで、三角の形をしています。爪で力を加えると簡単に殻が割れて、そのまま食べることができ、かなりおいしいです。
このおいしい実はツキノワグマの大好物でもあり、ブナが豊作になる年には、クマも栄養をたくさん得られるので子供を出産します。しかし翌年のブナはまったく実をつけないので、山は食糧不足になる可能性が高まり、子供を連れたクマが人里近くにやってくることが多くなるので、山で生活するものにとってはブナの実が豊作=翌年以降、子連れクマに注意という意識になります。クマと出会ったらどうするか?など、クマのことに関しては別の機会に詳しく書かせてもらいたいと思います。

こうした木の実と山伏にも浅からぬ関わりがあり、山伏には穀物断ちとして米、麦、アワなどを食べない修行があります。湯殿山で即身仏になる修行者は、まさにこの十穀断ちをおこない、脂肪を落とし腐敗しない身体づくりをして、入定というミイラのような状態になったのだと言われます。どの穀物を避けていたのかは地域や時代によってまちまちですが、主にはイネ科の作物が穀物と考えられることが多かったようです。

穀物断ちをしている修行者はブナの実、カヤの実などの木の実、それにソバガキなどを食べていたと伝えられ、ソバガキを食べることから、後に「お蕎麦」を食べるようにもなりました。しかしブナの実のことを別名「ソバグリ」とも言い、それがタデ科のソバと勘違いされたので、修行中にソバを食べるようになったのではないかと、個人的には想像しています。
古く「ソバ」とは角ばった形のことを言ったようで、ブナの実もソバの実も角ばっています。「栗」という言葉は「黒」に通じる意味だとか、「石」を意味する言葉だとか、朝鮮半島で使われていた栗を表す言葉「クル」に由来するなど諸説あります。ドングリの「ドン」については、おもちゃのコマの古名である「ツム」が変化したとも言われますが、いまいちピンとこず、これだという納得のいく有力説がないように思います。

いずれにしても、とても古い時代から食べられ続けてきた木の実が、現代人から見過ごされているのは勿体無いと思うので、どこかで見つけたら、恥ずかしがらずに拾い食いしてみて欲しいです。

Illustration: Daizaburo Sakamoto
Credit: Yohta Kataoka

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坂本 大三郎

坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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