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24年前の受精卵から赤ちゃん誕生…増えつつある「胚の養子縁組」とは

Emma Wren Gibsonちゃんの命が受精卵に宿った時、彼女の産みの母となるTina Gibsonさんはまだ1歳半だった。

ふたりの女性はそのまま同じ時間の流れの中で成長していけば、もしかしたら歳が近い親友になっていたかもしれない。でもEmmaちゃんは、受精卵として命を授かった直後に胚の状態のまま液体窒素の保存容器におさめられ、冷凍保存された。そして24年後、運命のように彼女を選んだTina さんの子宮に移植され、無事Tinaさんの長女として生まれてきたのだ。

Emmaちゃんがたどった命の軌跡を「Embryo adoption(EA、胚の養子縁組)」という。正確なデータは存在していないものの、24年間も凍結されていた胚が無事出産に至ったケースはいままで確認されている中では最長記録だそうだ。BBCによれば、TinaさんのようにEAを受けて子どもを授かるケースはアメリカで年々増えている。不妊症に苦しむ夫婦にとっては最後の希望ともいえるだろう。

しかしEAの成功率は決して高くない。胚が問題なく冷凍・解凍される確率は75%、そのうち子宮に移植された胚の49%だけが赤ちゃんとしてこの世に生を授かるという。実際Emmaちゃんと一緒に解凍された血のつながった「兄弟」ふたりは、Tinaさんの子宮に着床できずに儚くなったそうだ。運を味方に生まれてきたEmmaちゃんを「天の神さまからの尊いクリスマスプレゼント」だとTinaさんはいう。

Tinaさんが母になるには複雑な事情が阻んでいた。彼女の夫、Benjaminさんは生まれつき嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis、CF症)という難病を患っており、子どもを授かれない体だった。夫婦はそれを承知の上で7年前に結婚し、短期的に里子を受け入れながら愛のある家庭を築き上げていった。

あるときTinaさんの父親のふとした言葉が若いカップルの心を揺さぶった。テレビで見たEAが、ふたりにちょうどいいのではないかと。EAが「養子縁組」といわれるのは、卵子も精子も不妊治療を受けているカップルのものではないからだ。CF症は遺伝的疾患であるため、Benjaminさんの遺伝子を継がなければ生まれてくる子どもは影響を受けない。そして、卵子、精子の両方が他人から譲り受けたものであれば、両親のどちらかだけに似るという不平等がない。夫婦で話し合った結果、Tinaさん夫婦はアメリカ・テネシー州のNational Embryo Donation CenterでEAの治療を受けることに決めたという。

NEDCのウェブサイトによると、アメリカでは推定70万から100万個の人間の胚が冷凍保存されている。それらは体外受精のために作られた胚が、当人に使用されることなく余剰となったものだ。余剰の胚がたどる運命は3通りある。ひとつは研究機関への寄付。ひとつは自然解凍、そして死。もうひとつが不妊症に悩むカップルへの寄付だ。キリスト教の倫理観が生命尊重を貴ぶアメリカ南部では、この最後の選択肢により多くの胚がNEDCなどの非営利団体に寄付されるそうだ。

日本では、不妊治療としての胚移植は1982年から臨床応用されているが、治療を受けている当人たちの卵子と精子を使うことがほとんどのようだ。ほかの治療法でどうしても妊娠に至らない場合のみ、夫婦の強い希望があれば非配偶者の精子や卵子を用いた人工授精治療が考慮される。しかし、この治療法では親と子どもに遺伝的なつながりがなくなること、そしてどの夫婦にも勧められる治療法ではないことを、日本生殖医学会のウェブサイトは述べている。血縁がそのまま戸籍に反映される日本独特の社会システムにおいて、胚の養子縁組はまだまだ一般的ではない印象を受ける。

日本で胚の養子縁組を組んだり、他人からの卵子や精子の寄付を受けるにはまだ厚生労働省や法務省においての法整備が不十分だという点もあるようだ。慶應義塾大学教授の吉村泰典氏によれば、世界で最も体外受精が行われている国でありながら、日本では生殖医療に対する法律やガイドラインが制定されていないと指摘している。10年ほど前から国会で審議されない状況が続き、規定しているのは日本産科婦人科学会の見解のみであるという。

一方、TinaさんとBenjaminさんにとっては、Emmaちゃんの遺伝子がどこからきているかはまったく関係ないそうだ。「私は、とにかく赤ちゃんが欲しかったの。それだけ。だから、新記録の赤ちゃんなんて言われてもピンとこない。」

Woman gives birth to ‘snowbaby’ who was frozen as embryo for 24 years (ZME Science)

The Americans who ‘adopt’ other people’s embryos (BBC)

About NEDC (National Embryo Donation Center)不妊症Q&Aよくあるご質問(一般社団法人日本生殖医学会)

クローズアップ現代「急増 卵子提供」(NHK)

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