平和な街を襲った悪夢……「天使」はなぜ惨殺されたのか?

フロリダ州南部に位置するブラウワード郡は世界でも有数の美しいビーチを誇り、多くの観光客が訪れる。近所付き合いが盛んなこの地ではお互いが助け合って暮らしており、温かい雰囲気がいたるところで感じられるという。

だが1998年12月、この平和で小さな街に暮らす住民たちの間に大きな衝撃が走った。街角に設置されたごみ箱の横から、誰からも慕われていた若い女性の惨殺死体が発見されたのである。

頭に紫色の布袋をかぶせられた全裸の遺体からは体液の痕跡も発見され、性的暴行を受けたことは明らかだった。また検死の結果、犯人はレイプだけでは飽き足らず、被害者の体を36か所も刺してから殺害していたことが判明。しかし致命傷となったのは頭部への一撃で、頭がい骨に小さな星形の陥没が確認された。

殺害されたのは当時21歳のドーニャ・ダコスタ。小児科の看護師として働く夢を実現させるため学校に通いながら、教会へ行くことを息抜きとする真面目な女性だった。明るくて思いやりがあり、どんなことにも一生懸命取り組んでいたという。

ドーニャは金曜夜の礼拝から朝になっても家族の元に戻らず、最後に目撃されたのは真夜中のガソリンスタンドだった。警察は、彼女の運転する車が教会からの帰路にガス欠を起こし、スタンドまで歩いていったと推測。目撃証言によると、花柄のワンピースを着たドーニャのそばに“ホープ”と書かれた教会関係者のワゴン車が停車し、口ひげのある身なりの良い男性が彼女に行き先を尋ねていたそうだ。

その後、近所に住む教会の車を運転する父と息子に容疑がかけられ、車内からは花柄のワンピースも発見された。これで一気に事件解決か!?
と思われたが、ワンピースはドーニャのものではなく、DNA鑑定も一致しなかったため捜査は振り出しに戻ってしまう。

だが、遺体発見から1ヶ月以上が経過し捜査が行き詰まりを見せ始めた頃、別の事件を担当していた刑事が、ある保育所の駐車場に“ホープ”と書かれたワゴン車が停められているのを偶然目撃する。

ワゴン車の持ち主は保育所の責任者をつとめていた牧師だったが、容疑者の似顔絵とは似ても似つかないうえに事件当日は出張していたという完璧なアリバイもあった。しかし、几帳面な性格の彼は日頃から車を利用する人物を記録していたため、事件があった週末にワゴン車を利用していた人物の名を聞くと、刑事は思わず鳥肌が立つのを感じた。その男の名はルーシャス・ボイド。過去にレイプや殺人などの容疑で3、4回起訴されていながら、いずれの案件も無罪放免となっている、通称“ルシファー”(=悪魔)と呼ばれる男だったからだ。

牧師に車が返却された際になくなっていたという、先端が星形のトルクドライバーと、洗濯物を入れるのに使用していた紫色の布袋、そして事件現場のものと一致したボイドのDNA……。そこにはドーニャ殺害を立証するのに十分すぎる証拠が揃っていた。2002年1月、ルーシャス・ボイドは誘拐、レイプ、および殺人の罪で極刑を宣告されたが、ボイドと一緒にいるところを目撃された後に行方不明となったままの女性が複数おり、警察は連続殺人犯とにらんでいる。

信心深く、出会う人々に幸せをもたらしていたドーニャと、残忍かつ凶悪な手口で多くの命を奪ってきたボイド。あの夜、ガソリンスタンドでたまたま遭遇してしまった“天使”と“悪魔”……不運と言うにはあまりに凄惨かつ傷ましい事件として、今も捜査員の記憶に刻み込まれている。

「狙われた隣人  姿を消した天使」はディスカバリーチャンネルにてご視聴頂けます。ディスカバリーチャンネルを未視聴の方は、こちらからご確認ください。

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