Credit : Yohta Kataoka

フランスでの作品制作を終えた写真家、石川竜一氏にインタビュー!

沖縄のリアルな「人間」を独自の感覚でチョイスし、えぐりとるようにして印画紙に落とし込んできた気鋭の写真家、石川竜一。沖縄を舞台にした一連のシリーズは写真界で高い評価を得て、一昨年には木村伊兵衛写真賞、日本写真協会新人賞を受賞。今もっとも熱い注目を集めている写真家の一人である。 

そんな彼がアーティスト・イン・レジデンスのきっかけを得て渡仏。パリに滞在しながら、フランス各地の日常に潜伏し、市井の人々を撮影してきた記録が、現在、東京・渋谷で開催中の石川竜一写真展『OUTREMER/群青』である。 

今回、展覧会場で石川氏に時間も貰い、写真に対する思いと新作について語ってもらった。

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リサイクルショップで売りつけられた壊れたカメラ

 —あらためて、写真を始めたきっかけから教えてください。 

石川:ボクシングを辞めて、ちょうど二十歳ぐらいの頃、リサイクルショップのおっちゃんにカメラを売りつけられたのがきっかけです。特に写真には興味はなかったんですけど、おっちゃんが「二千円だけど千円でいいから持っていけ」というので買わされました。

でもそのカメラが壊れていたんですね。

僕はなにも知らないから、カメラが壊れているってことがわからなくて、カメラについているカチカチする目盛りをどうにかすれば写るんだって思っていました。

でも何回現像所に出しても、ちゃんと写っていないので、現像所のおじさんに、「カメラってどうやって使うの?こういうカチカチする目盛りとか数字ってなに?」って聞いて、カメラや写真の知識を集めていきました。 

—それでカメラが壊れていたということに気づいたんですね? 

石川:そうですね。壊れていると気づいたときには、写真についての知識が少し頭に入っていて、こうすればこういう写真が撮れるということが頭ではわかっていました。

なので、バイトをして、中古の一眼レフカメラを購入しました。 

—いちばん最初に撮った写真は覚えていますか? 

石川:ホントのいちばん最初は、空き缶を置いて、露出とかをズラしながらのテスト撮影でしたが、そのあとは原付に乗って外に出ました。気になった空き家をみつけて撮影したり。でもそれもすぐに飽きてしまったんですね。撮影するときに見たものと、現像して写真として写っているものが違うと思って。

そこで、どうやったら自分が感じたものを写真としてかたちにできるかということを考えてみて、暗室で手焼きしていたので、合成写真をやってみようと思いました。焼き込みの技術を合成写真に応用してドンドンハマっていきました。そして手法がエスカレートして、最終的にはなにも撮影しないで、現像液と印画紙だけでコラージュをするようになりました。 

—抽象的な表現に向かったんですか? 

石川:でもそれを続けていくうちに、なんかこれは写真じゃないような気がする、と思うようになってきて、写真とはなんなのか?という疑問にぶつかりました。で、考えてみたら、やっぱり写真はなにかを撮らないと写真じゃない…っぽいなってことに行き着いて、それなら身近な人たち、友達とかを撮影しようと。それが『adrenamix』というシリーズになりました。

石川竜一写真集『adrenamix』より

被写体を4年かけて口説き落とすしつこさ

—『adrenamix』をはじめ、石川さんの作品は、おもにポートレートが中心ですが、石川さんが撮りたくなる人物は、どういう人ですか? 

石川:それが結構わからなくて、ホントにそのときどきで違うんです。例えば、今僕が着ているこのスカジャンと同じものを着ている人がいたら、たぶん撮らせてくださいって声をかけるし、チャック開いている人や、なにか考え事をしながら歩いているという人にも声をかけると思います。

でもこういう感じの人だから声をかける、というのはないですね。

僕の気持ちのタイミングもあって、この人と、この瞬間に、この場所で会ったから、というのが揃わないと声をかけないですね。だから別のところで見かけても、声をかけないということもたくさんあります。

 

—石川さんは、どんな風に声をかけるんですか? 

石川:人によって違いますね。中学生だったら、「ウィッスー」って感じで声をかけていくし、年配の方だったら、「すいません、人の写真撮っていて、写真集にしたり展示したりしたいんですけど、写真撮らしてもらえないですか?この場所で、このままでいいので」みたいに説明します。

 

—だいたいOKしてもらえますか? 

石川:OKしてもらえることが多いですね。

もちろん断られることもあるんですけど、僕、けっこうしつこいんです。断られて「あーわかりました」ということもあるんですけど、絶対に撮りたいというときは、足繁く通います。4年ぐらいかけて、僕のことをわかってもらって撮らせてもらったこともありました。レアなケースですけど。

石川竜一写真集『okinawan portraits 2012-2016』より

まったく興味はなかったフランス

—いつもは沖縄在住で、沖縄で撮影されることが多いわけですが、今回、フランスに行かれました。まず、フランスにはどれくらい行かれてたんですか? 

石川:4ヶ月ですね。2015年の2月から4月までの2ヶ月と、2016年の12月末から2月までの2ヶ月です。 

—そしてフランスでも、これまでと同じ手法で撮影をしてきたということですが、フランスはいかがでしたか? 

石川:めちゃくちゃ心がキューンとなりました。キューンというのは「辛い」という意味で。

まず言葉が通じないので、気になった人とすぐにコンタクトがとれないので、どんどん自分で自分を小さくしてしまっている感じというか。行動することも、だんだん億劫になってしまいました。

石川竜一写真展『OUTREMER/群青』より

—石川さん自身が、フランスに行きたかったんですか? 

石川:フランスには、それまであまり興味もなかったし、なにも知らなかったです。ただ、きっかけをいただいて訪れてみたら、こんなにいろいろな人、人種とか、階級とかが違う人が、ひとつの道にごちゃごちゃしているということにメチャクチャびっくりしました。

一回目に行ったときは、見つけたものに対して直感的に反応したかったので、フランスに対してなにも知らないまま行きました。でも帰ってきて撮影してきたものを見たら、自分がいったい何を撮影したのかわからない、整理もできない状態だったので、帰国後はフランスの歴史、民族の移動とか社会問題を少しだけ勉強しました。

石川竜一写真展『OUTREMER/群青』より

石川:その上で、自分が撮ってきたものを見直して、自分がどういう風に反応していたのか、自分が反応したものはなんだったのか、ということを整理して二回目の渡仏に望みました。といっても手法は一回目と同じです。知識や思考として吸収したものは無意識にでてくると思っているので、あえて意識はせず、一回目と同じように適当なところに行きました。 

—具体的には、どんなところに行かれたんですか? 

石川:マルセイユに行ってテレビで天気予報を見ていたら、コルシカ島という名が出てきたので行ってみました。

冬のコルシカ島は人が少なくて、カフェにもお客さんがほとんどいないんですけど、カフェのお母さんが「この島は寂しい島だよ。冬になると仕事はないし、若い人は都会に出て行くし」って話してくれて、それ、沖縄でも聞く話なので、僕の中で沖縄と重なったんですよね。

ほかにも、若者に「どこに泊まっているの?」って聞かれて、「だいたいはパリに泊まっている」といったら、「あーパリね?ははは…」みたいにいわれたのが、沖縄でいうところの「ナイチャーね、ははは…」みたいな感じと同じような雰囲気があって。そういう風に、ふとしたときにコルシカと沖縄が重なったのがおもしろかったですね。歴史的にもいろいろ複雑なところがありますし。

石川竜一写真展『OUTREMER/群青』より

—ロマの一家とも交流したそうですね。 

石川:ロマと暮らしている友人に紹介してもらったということもあり、フランスの人と接するのよりも気持ちが近く感じられました。 

—差別されているんですか? 

石川:そうですね。普通に住む場所がないですから。空き家に勝手に住んだりしていました。

お母さんがワイルドなんですよ。子どもを叱りつけて叩くときもフルスイング。食事の時間になると、僕に対して「どうせ食い物が欲しかったから来たんだろ?」とかいったりして。

でもその感じが、沖縄のおばあちゃんたち世代の人とめっちゃ似てて、小さい頃、おばあちゃんにめっちゃ追いかけられて、フルスイングでめっちゃ叩かれたことを思い出したり。乱暴に見えるんだけど、気持ちはそうじゃない。どこの誰かわからない僕にご飯を山盛り入れてくれる。そういう苦労している人の優しさ、すごい好きだなーって思いました。  

作品について言語化するということ

—フランスでの経験を経て、沖縄、日本の見方は変わりましたか? 

石川:フランスにいって、なんでも言葉で説明しなければならないから、「言葉」というものについて調べていたんですけど、自分の写真というものを、ある程度ロジカルに考えないとならない、自分の行動に目的を持たせないとならない、ということを考えさせられました。

ただ考えれば考えるほど、写真という表現は、そういった「言葉」からこぼれ落ちてしまうものを拾い上げることができる気がする。

今まで自分は、何か感じたものに対して、瞬間的に反応できるようにしてきたんですが、フランスでの滞在を経験して、無意識のところを一回意識化したことで、より深く無意識を感じることが出来た。

先日開催されていた、「日産アートアワード2017」で「home work」というシリーズを発表したんですが、それはフランスに行ったからできた作品だと思います。フランスで会った人、フランスで見た状況とかが、自分と社会との繋がりを考えさせられるきっかけになりました。

自分が撮ったものをロジカルに考えて、組み立てていく。ホームワークの作品の構造は、フランスに行ったからできたと思います。

それを通過して、今回の『OUTREMER/群青』展は、その構造からも抜けた感じがあるんですよね。例えば今回はプリントのサイズにも意味をつけてなくて、写真を見ていて、「この写真はちいさくしれっていってる(笑)」みたいな感じでサイズを決めていたり、展示の配置も、言葉で意味が繋げられないような並びにしたりしています。この写真の隣に、あの写真があったということは覚えきれないんだけど、その場所に行けばその感じが思い出せる、というような風にしたくて、こういうランダムな吊り下げ方にしました。

Credit: Yohta Kataoka

例えばこの写真とこの写真は、色で繋がっているというように言語化すればすぐに覚えられるけど、そうしてしまうことで、写真の間に流れているものが見えなくなると思うんですよね。今回のシリーズは、特にそういう点を意識して展示しました。 

—最初、フランスには興味がなかったといわれてましたが、今後行ってみたい場所はありますか? 

石川:ここという場所はないですね。フランスにはまた行きたいと思っていますけど、機会があればどこにでも行きたいです。あそこに行きたいという思いがあると、そのイメージに縛られて、そのイメージを追いかけてしまう気がするので、どこでもいいので、僕が想像していないところに反応したいと思っています。その方が、気づけなかった部分に気づけるような気がするので。

インタビュー日:2017年11月16日
インタビュー場所:アツコバルーarts drinks talk

Credit: Yohta Kataoka

石川竜一をより知るための一問一答 

—好きなミュージシャン、バンドは誰ですか?
THE BACK HORN、椎名林檎 

—好きな映画はなんですか?
『珈琲時光』 

—好きな食べ物はなんですか?
アイスクリーム

—嫌いな食べ物はなんですか?
なし

—今欲しいものはなんですか?
新しいカメラ 

—幼い頃、どんな子どもででしたか?
横着な子どもでした 

—初デートの場所はどこですか?
自宅の裏の海 

—初めて沖縄に来た友達、とりあえず、どこに連れていきますか?
友達がやっているバー 

—石川竜一にとっての、沖縄の名所、名物はどこ(なに)ですか?
名所は僕の友達の飲み屋があるところ
名物は、人、友達 

—今度、ぜひ行ってみたいところはどこですか?
どこでもいい 

—自分の中で、人に誇れることはどんなことですか?
我慢強い。勢い?ノリ? 

—コンプレックスはありますか?ある場合、それはどんなコンプレックスですか?
体毛が濃い、体臭が強い、汗かき、足が太い、尻顎、額が広い、乳首の形、筋肉のつき方、記憶力がかなり弱い。 

—写真家になってなかったら、なにをしていると思いますか?
ダメな人間になっていると思います 

—これまで自分の被写体になってくれた人の中で、もっとも印象が強い人は誰ですか?
グッピー 

—尊敬する人は誰ですか?
父親

石川竜一写真展『OUTREMER/群青』
2017年11月11日(土)~12月10日(日)
会場:東京都 渋谷 アツコバルー arts drinks talk
時間:水~土曜14:00~20:00 日、月曜11:00~18:00
定休日:火曜
料金:500円

http://l-amusee.com/atsukobarouh/

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