Credit : Yohta Kataoka

【野良山伏 連載】第7回 柿とハクビシン料理

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。

 山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

空が高くなり、陽の光が秋の深まりを感じる頃は柿がまるまると実る時期です。柿もぎをして、たくさんの柿を入れた果物運搬用のコンテナはずっしりと重くなり、運ぶのに腰が痛くなってしまうほどです。

柿の皮をむいて、ひとつひとつヒモにつけて軒下につるして干し柿をつくるのが毎年の仕事。柿はもともとタンニンの渋みがありますが、乾燥させることによってタンニンが変化し、渋みがなくなり甘みが出てくるのだそうです。

僕が暮らしている山形では、軒下で干し柿を吊るしている家を目にすることが多く、その景色は、なかなか風情があって良いものです。日に日に柿が萎れていき甘みが増していくのを、みんな心待ちにしているのですが、それを待っているのは人間だけではありません。 

夜が静まるのを待って、暗闇で目を光らせているのはハクビシンです。ジャコウネコ科のハクビシンは南東北や関東、中部と四国に多く生息しており、2000年代初頭のSARSウイルス騒動では、ハクビシンがウイルスの宿主ではないかと疑われて、連日ニュース番組で報道されていたのを憶えている人もいるのではないでしょうか。

彼らはタヌキなどの獣では届かないような高い場所にもスルスルと器用に登る高い運動能力を備えており、屋根裏に棲み着いて糞尿で家を臭くしてしまうなど、問題を起こすことがあり嫌われていますが、甘い果物が大好きで、油断をするとせっかく作った干し柿をごっそりと食べてしまうため、柿の時期のハクビシンはことさら目の敵にされているのです。

ハクビシンに食べられてしまった干し柿

ハクビシン対策のためハコ罠を仕掛ける人もおり(狩猟免許が必要です)、時折「大三郎、ハクビシンいるか?」と連絡がくることがあります。捕まえた獣は罠ごと水に沈めて殺すという話も聞きますが、溺れて死ぬのは苦しそうなので、絞める際には頭を硬い棒で叩くか、鉄砲を持っている猟師に急所を撃ってもらうなどした方が、苦しみが少なくて良いのではないかと僕は思います。 

そうして絞められたハクビシンをいただくことがあるのですが、実はおいしい獣なので、毛皮と肉にわけて、肉を食べることにしています。

ハクビシンを解体するのも他の獣と同じように、首の中央辺りからお腹の下まで切り込みを入れていきます。次は胸から前足の手のひらの付け根まで切り込みを入れ、下腹部から後ろ足、足首まで切り込みを入れます。そして毛皮を脱がせるようにして身体から取り外します。内臓と骨は穴を掘って埋葬します。 

ハクビシンは肛門のあたりに臭腺を持っているので、刃を入れる時にはそれを傷つけないように注意しなければなりません。「イタチの最後っ屁」という言葉がありますが、イタチやスカンクと同じようにハクビシンにも発達した臭腺があり、万が一それを傷つけてしまったらものすごく臭い、と聞きます。幸いこれまでイタチの最後っ屁をくらったことも、ハクビシンの臭腺を傷つけたこともなく、どれくらい臭いものなのかは体験したことがないので、ちょっと嗅いでみたい気持ちもあります。 

毛皮を外した身体は、手足の肉と胸肉、背中の肉と切り分けます。そしてみじん切りにした玉ねぎを炒めてから、肉を焼いて、鍋に入れ、水を足して沸騰させて野菜を入れ、コンソメ、塩こしょうを足し、赤ワインを入れて弱火で2〜3時間煮込み、ハクビシンの赤ワイン煮を作りました。

すこしクセがあるとも言われるハクビシンの肉ですが、僕はそれほどクセを感じませんでした。牛臭さのない牛肉……表現が難しいけれど、そんな印象です。とびきりおいしい、というわけではありませんが、そこそこのおいしさだと思います。ただ、身の回りの人にすすめても誰も食べてくれないので、ハクビシン料理を作ると、食べきるのがいつも大変です。

Illustration: Daizaburo Sakamoto

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Credit: Yohta Kataoka

坂本 大三郎

坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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