宇宙飛行士になる10の条件!泳げないといけない意外なわけは?元JAXA職員・柳川孝二【特別講演】

子供の頃誰もが一度は夢見た宇宙飛行士という職業。しかし宇宙飛行士になるには、どのような条件や試験が必要とされるのか? 

2017年11月12日(日)、北海道大学工学部オープンホールで開催された「コズミックカレッジ2017」に、534名の親子連れが参加した。東京、神戸、名古屋に続き4回目のイベントとなった札幌会場の特別ゲストとして、宇宙飛行士選抜試験に深く関わってきた元JAXA職員の柳川孝二(やなかわ こうじ)さんが登壇した。 

2014年には若田光一宇宙飛行士が日本人で初めて国際宇宙ステーションの船長に就任。リーダーとなった若田さんは以下のようにコメントした。 

「ISSという国際協力プロジェクトの中で、和の心を大切にして相手を思いやり、そして調和の中からベストな結果を生み出す。世界の中の日本らしさを持って船長業務にあたりたいと思っています」 

彼らはいったいどのようにして選ばれたのか、考えたことのある方も少なくないだろう。札幌会場では、そんな宇宙飛行士の採用と養成に関わったエキスパートと、その舞台裏にせまった。

—宇宙飛行士と聞くと「狭き門をくぐったすごい人」のイメージです。どんな条件をクリアしなくてはならないのですか? 

柳川さん:  当時はアメリカ、NASAの初期の宇宙飛行士はほとんどが軍出身のパイロット経験者。手探りの開発だったので危険が伴う任務に命をかける度胸も必要。いわば英雄タイプですね。 

現代は国際宇宙ステーションでアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダの6人の搭乗員が長期間一緒に暮らしながら任務をこなすので、協調性とコミュニケーション力が求められるようになった。目的に合わせて条件は変化するのです。 

—では早速、応募条件を教えていただけますか。 

柳川さん:  JAXAの場合、国によって異なりますが条件は10あります。まず5つを説明しましょう 

1.日本国籍をもっている

日本の国家を挙げての大プロジェクトだから。

2.自然科学系大学を卒業

複雑な装置、機械からなる国際宇宙ステーションを操作しますし、壊れたら修理しなければならない、色々な科学実験も行うからです。

3.3年間の社会人経験。実務についた経験

社会で揉まれた経験があることを重視しているのは、学校で得た知識を実際に使った経験があることが大事なんです。

4.訓練・宇宙飛行に円滑・柔軟に対応できる

選抜された場合、宇宙飛行士になる訓練がゼロから始まるので、新しいことに対応出来る能力があるかどうかを見るわけです。

5.泳げる

飛行機に乗って訓練を行なうのですが、メキシコ湾の上空なので、万一、飛行機が故障して海に降りた際、救助が来るまで、海上で待っている必要があるからです。

6.円滑な意思疎通が図れる英語能力

宇宙ステーションでは、英語とロシア語が公用語で、ロシア語も習得してもらいます。相手と議論して負けないくらいのレベルが必要です。

7.訓練・長期滞在に適した心と体

身体的な条件もあります。身長は158センチ以上190センチまで。体重は50キロ以上85キロ以下と範囲が決まっています。メガネはOKです。

身体的な特徴以外にも、協調性や意志の力など、性格もみられます。

–実際にどんな試験をするんですか? 

柳川さん:  4段階で絞っていきますが、面接が重視されます。最後の段階で面接では解らない点を調べます。その一例が閉鎖環境滞在訓練です。窓のない部屋で何日も集団生活を送ってもらい、ストレスのかかる環境で様々なテストをします。グループ分けして共同作業でものを作ったり、テーマを与えて討論させたりなどします。 

8.日本人としてふさわしい素養

日本代表として活躍してもらうので、日本を正しく伝えられるよう綺麗な日本語を話せること、日本の文化に造詣が深いだけでなく異文化への理解力も必要です。

9.10年以上の勤務従事

宇宙飛行士に年齢制限は、原則無いのですが、JAXA職員の定年が60なので、働く期間と訓練期間を考えてくださいと言う意味です。

10.所属機関の推薦

NASAの選抜担当に教えてもらったのですが、その人の資質と能力を一番知る人は職場の「上司」だと。実務を一緒に行った人からの本音の推薦状が役に立ちます。

–柳川さんの説明を伺っていると個々の項目はそれぞれが納得できますが、これを全て満たすのはかなり難しいのでは? 

柳川さん: 宇宙飛行士がある意味、スターのような存在になる所以だと思います。でも、選抜試験は。スタートラインに立てるかどうか見るものであって、どんなに選抜試験で優秀であっても、そのままでは宇宙では何もできません。いつまで経ってもフライトに参加できないのです。本当の試練は選抜の後の長期にわたる訓練にあるんです。 

–具体的にどんな訓練をするのでしょう。 

柳川さん: 訓練では座学と実技の二つがあって座学は宇宙飛行士に必要な知識、宇宙科学、宇宙医学などの講義と英語とロシア語の語学訓練などがあります。

実技は飛行機の操縦訓練、体力訓練があります。
訓練では複数の情報を判断して行動に移す能力(マルチタスク)を鍛えることが重要視されまず。例えば、ロボットアームの操作。ロボットアームはとても細長いので、わずかな操作ミスで大きく揺れたり、物をつかみ損ねたり、操作が非常に難しいのです。

所定の位置にドッキングさせる場合、ミスがあればISSにぶつけて大事故を起こすこともあり得ます。周囲に注意をはらいつつ、揺れを読んで操作することが重要なのです。 

—屋外での訓練もあるんですよね? 

柳川さん: はい、ロッキー山脈での団体行動もします。30kgくらいの装備を担いて、山岳地帯を移動する過酷な訓練です。元気なうちは良いのですが、疲れてきた時が問題。訓練中にけが人が出て、どう安全に連れて帰れるかなど悪条件下でのトラブルを想定した訓練です。 

—選抜試験より、もっときつい課題が待っているんですね。 

柳川さん: その通りです。だから選抜後の伸び代が大事なのです。船長を務めるまでに至った若田光一さんでも最初の頃は航空機の訓練の際、地上の管制官と会話が上手く行かず、落ち込んだ時があったみたいです。でも、こういった失敗をバネに進歩すれば、選抜後の成長があって宇宙飛行士になれたのだと思います。 

—脱落者はいませんでしたか? 

柳川さん: 幸い日本人宇宙飛行士は全員が立派にクリア!でも、外国では脱落者があると聞いています。JAXAの選抜試験がうまくいっていることの証明とみています。

—私たちも宇宙に行きたい!と思うのですが、宇宙飛行士にならないと宇宙には行けないのですか? 

柳川さん: 実は、民間主体で再利用ロケットを利用して無重力体験ができる宇宙旅行の計画が始まっています。そして、世界の各都市をロケットで結ぶ構想もあるんです。大気圏外を飛行するので宇宙を体験出来る上、主だった都市は片道30分ほどで結ばれるようになります。

宇宙から地球を見る体験は宇宙飛行士だけのものではなくなりつつありますね。

柳川さん: 最後に、皆さんに考えていただきたいことがあります。人はなぜ宇宙を目指すのかということです。現代でも宇宙へ行くのは危険が伴いますし、時代は省エネルギーを目指すのに、ロケットは大量の燃料を必要とします。それでも宇宙を目指す理由は何か?

「人類の可能性を切り拓く」というのが有人宇宙開発の一番、理にかなった目的と私は考えます。

そして、「宇宙から見た視点」は地球上の人々の物の考え方にも大きな影響を与えます。 

 地球を宇宙船と捉えれば「私たちは皆、宇宙飛行士」。同じ宇宙船に乗っていると考えれば、社会の問題は他人事ではなくなる。

「火星に行って、探査する」のも人類の可能性を切り拓く活動だが、「月からの地球を見て、新しい考えを得る」のも人類の可能性を切り拓く活動です。


「コズミックカレッジ」は、人類のフロンティアである宇宙の不思議と宇宙を目指す人類の挑戦をテーマに映像と実験を組み合わせ、解説していく体験型サイエンス教室。9年目を迎えた今年は、ディスカバリーチャンネルのハイクオリティな映像とJAXAのホンモノ実験教室、さらにNHK「コズミックフロント」の高精細な映像で、宇宙への学びを深めてもらう機会を提供することを目的とした新プログラムの開発を行い、宇宙開発分野で世界をリードする三菱電機株式会社の特別協賛を得て、全国5都市(東京、神戸、名古屋、札幌、福岡)で開催されている、他に類を見ない無料イベントだ。

今年は、ツアーが行われる5会場で前半パートにそれぞれ違う特別講演や実験プログラムが組み込まれている。上記の柳川孝二さんの講演は、札幌会場での講演会の一部を抜粋した。

学びの楽しさを実際に体験することで学校の成績もグングン伸びることが報告され、注目を集める「アクティブ・ラーニング(能動的学習)」。ディスカバリーチャンネルはコズミックカレッジをはじめとするイベントや放送を通して、アクティブ・ラーニングを支援している。