【野良山伏 連載】第4回 ベニテングダケを食べる

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。

山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

Credit: Yohta Kataoka
 

森の中を歩いていると、時折あざやかな赤いキノコに出会います。あの人気ゲームでキャラクターがゲットすると巨大化するキノコにそっくりな「ベニテングダケ」です。多くの人はこのキノコを食べたら重い中毒に陥ると考えているのではないでしょうか。キノコ図鑑などをみると、猛毒と書かれていることもあり、幻覚作用を持つとされています。

しかし実際には、それほど毒性の強くないキノコとも言われ、法的にいってもシロシンという物質を含むキノコは規制されていますが、ベニテングダケのようにイボテン酸を含むキノコは法規制の対象ではありません。

ベニテングダケは『カムイ伝』などで知られる漫画家の白土三平先生の好物で、先生曰く「10本までなら食べても大丈夫」とのことです。白土先生の故郷である長野でも塩漬けして毒を抜き、郷土料理として古くから食べられており、またキノコ研究者の間ではかなりおいしいキノコとして知られているのだそうです。

そんなベニテングダケは、僕が暮らしている月山でも9月の中旬から終わり頃に生えてきます。夏が終わりかけ空が高くなってきたある日、森の中を歩いているとベニテングダケの姿が目に飛び込んできました。「みるからに毒々しい色合いなのに、おいしいとは……」僕は興味を惹かれ、とても食べてみたくなりキノコを家に持ち帰りました。

よくみると小さな黒い虫がたくさんついているので、まずは塩水につけて虫を落としました。虫を落としたら、次は泥などの汚れを落とします。柔らかい布でキノコを撫でると、汚れと一緒にカサについていた白いイボが取れてしまうので、できるだけイボを取らないように優しく触ります。

汚れを取ったあとは、ナイフで細かくカットしていきます。カサと柄を同じように細かく刻み、サラダ油をしいたフライパンでさっと火を通し塩を振って、「焼きベニテングダケ」の完成です。

皿に盛り付けて早速いただきました。口に入れた瞬間、濃厚な香りが広がりました。その味は上質な白身魚のようで、うわさ通りかなりおいしいです。茶碗蒸しにしたら最高に合うかもしれません。僕は2本ほど食べてみましたが、白土先生がいうように「大丈夫」でした。

しかし、誰でも必ず大丈夫というわけではないようで、後日、自分も食べてみたという友人夫妻に聞いたら、旦那さんの方は「大丈夫」だったそうですが、奥さんの方は「お腹を壊した」のだそうです。どんな食べ物でもいえることかもしれませんが、やはり食べた後の体調の変化には個人差があるので、お気をつけください。

またベニテングダケが生える場所のすぐ近くには、ドクササコというキシメジ科の毒キノコが生えており、このキノコを食べてしまうと大変危険です。ドクサコの中毒は、症状が一週間後に出ることがあり、身体の末端部分が火傷のように赤く腫れ上がり激痛が走り、その苦しみが一ヶ月も続くのだそうです。あまりにも苦しくて自ら命を絶つ人もいるといわれる恐ろしいキノコで、治ったと思っても、強い光などを見た刺激などで一年後に症状がぶり返すこともあるのだそうです。治療法はまだないとのことなので、ほんとうに恐ろしいです。

こうしたいろいろなものを現在の僕たちが安心して食べられるのも、ご先祖たちが生きるために試食してきた結果であり、その間にはさまざまな犠牲が払われていたのだろうと思うと、ご先祖様ありがとうという気持ちしかありません。

Credit: Yohta Kataoka
 

 

 

Illustration: Daizaburo Sakamoto
 

 
『【野良山伏 連載】第1回 カメムシを美味しく食べるコツ』はこちら

『【野良山伏 連載】第2回 ガマガエルと忍者と山伏』はこちら

『【野良山伏 連載】第3回轢かれたタヌキの皮をなめす』はこちら

 

坂本 大三郎

坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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