“ものづくりの楽しさ、伝えたい”JAXA宇宙航空研究開発機構・有川善久【特別講演】

2017年9月10日(日)、日本科学未来館で開催された「コズミックカレッジ2017」に、1000組を超える応募総数から当選した213組の親子連れが参加した。この東京会場では、人工衛星のスペシャリスト、JAXA宇宙航空研究開発機構の有川善久(ありかわ よしひさ)さんが登壇し、特別講演を行った。

 

―――有川さんは「だいち2号」の開発に関わったエンジニアとして活躍されています。「だいち2号」から送られてくる映像は非常に綺麗で、富士山の地形も細かいところまで見えるんですよね。

有川さん:地球から600㎞離れた宇宙から、地上の様子が詳しくわかる、しかも人がなかなか入っていけないようなところまでくっきり見えるというのは、やはりすごい技術かなと思います。

―――有川さんが人工衛星の開発に関わるようになったのは、何がきっかけでしょうか?

有川さん:小さい頃は、そんなに宇宙少年という感じではなかったと思います。子供時代は野球少年で、バットを持って走り回っていました。他には、キン肉マンとガンダムにあこがれていました。ご存じの通り、キン肉マンは宇宙超人、ガンダムは宇宙を舞台に戦うロボット、ということで、ぼんやりと宇宙に対しての憧れはあったと思います。鹿児島県には種子島宇宙センターがあって、宇宙には少しずつ関心を持つようになりました。大学生になってからは、私が通っていた大学の研究室は、たまたまちょっと変わった人たちの集まりだったこともあり(笑)、15人くらいで人工衛星を自分たちで作ってしまおうということで、大学と秋葉原を自転車で往復して部品を集めたり、デジカメを解体して部品を取り出したり、人工衛星の開発に明け暮れていました。

―――大学生時代から人工衛星の制作に夢中になっていたんですね。

有川さん:自分たちで作ったものが動く、というのが魅力でしたね。でも、手を抜いたところは動かない…、いつも「技術は正直」と思うんですが、ちょっとおかしいなと思ったら、後々で問題が出るということがよくありました。

―――ありがとうございます。では、ここで会場の皆さんには有川さんが大学生時代に情熱を燃やしていた人工衛星についてのクイズです。有川さん、お願いします。

有川さん:では、クイズです。私たちが学生時代に作った人工衛星はどのくらいの大きさだったでしょうか?

―――有川さん、ヒントはありますか?

有川さん:そうですね。世界で初めて打ち上げた人工衛星は旧ソ連が1957年に打ち上げたスプートニク1号は、直径およそ58cm、重さ約80kg の球体でした。それから60年。ちなみに先ほど登場した「ひまわり8号」は幅8m、打ち上げ時の重さは3500kgあります。

―――ずいぶん大きいのですね。

有川さん:でも、大学では大きな予算はなかったので、自分たちで工夫しながら作ったんです。そのあたりも考えてもらうといいですね。

―――では有川さん、正解をお願いします。

有川さん:私たちが作っていた衛星は、キューブサットといって縦横奥行き10センチずつ。重さは1kgしかありません。500mlのペットボトル2本分くらいですね。太陽電池パネルがついていて、地上と通信をするためのアンテナ、そして側面にある小さな丸い窓はカメラなんです。いわゆる人工衛星に必要な機能はすべて備えていたんですよ。私たちは「サイ・フォー」と名付けました。「サイ」はサイコロのサイ、「フォー」は4番目という意味です。3回作り直したので(笑)

 
―――ずいぶん小さいんですね。

有川さん: もしかしたら将来、この会場の皆さんが高校生や大学生になる頃くらいには、こういった人工衛星は作れると思いますし、今、世界のなかで東南アジアの国々とかアフリカ大陸の国とか、自分たちで大きな衛星は無理だけど、このくらいのサイズだったら出来るという国がたくさん出てきています。そういった国と大学生や研究者が一緒に作るというような時代が来るかもしれないですね。

―――「サイ・フォー」は、何をした衛星なんですか?

有川さん:衛星から地球の写真も撮影したんです。その写真がこちら。

 

―――世界中の景色を捉えてるんですね。

有川さん:こんな小さなサイズの人工衛星が作れるとは、世界中の誰も思っていなかったんです。でも世界に先駆けて、日本の2チームがこの小さな人工衛星を宇宙に飛ばしたところ、世界中がびっくりして、「日本人はクレイジーだ」と言われました(笑)。でもそこからいろんな国が研究を始めて、こういった小型の人工衛星が開発され始めた、という流れになっています。もともと、電力の確保や通信を発するなど、この小さな人工衛星の基本技術の実証が目的で、カメラでの写真撮影は「できればラッキー」のおまけミッションでしたが、予想以上の画像が撮れました。

―――学生時代に人工衛星に熱中した有川さんは2002年に、今のJAXA前身の宇宙開発事業団に入社したのですね。

有川さん:大学時代に、「ものづくりの楽しさ」というものに魅了されてしまったんですけれども、やっぱり世の中の役に立つ人工衛星を作りたいと思うようになりました。当時の宇宙開発事業団に入り、それから2003年に日本中の宇宙航空の研究開発をやっている3機関が一緒になって、JAXAという組織になりました。入社してすぐは通信衛星の開発をやっていて、それは地上と宇宙をつなぐ通信ということで、例えば東日本大震災の時、地上の通信網が途切れてしまった際には、アンテナを運んで東京と被災地の間をつなぐ、というようなサービスを提供しました。その後、通信よりも画でみたほうが皆さんの理解が進むのではないかと考えて、地球観測衛星の仕事をやってみたいと思うようになりました。

―――人工衛星のどんなところにやりがいを感じるのでしょうか

有川さん:そうですね、こういった講演などを行うと、JAXAだったり「だいち2号」の名前だったりを知っていてくださるので、そのいった時にやりがいを感じますね。

―――それでは、有川さんたちが開発した「だいち2号」について、お伺いします。「だいち2号」はどんな人工衛星なのですか?

有川さん:はい、下の画像が2号の大きさです。幅がおよそ16メートル。高さが3.7メートル、長さが10メートルあります。重さが2トンありますから、街中で見る運送屋さんのトラックくらいのものが宇宙空間にあって、グルグル動いていると想像してもらうとイメージがわくかと思います。

 

―――つばさのような板はなんですか?

有川さん:左右に広げているのは太陽電池です。これで必要なエネルギーを賄っています。そしてお腹の下の方についてる板はレーダー(Lバンド合成開口レーダ)なんです。

―――電波を出してるわけですか?

有川さん:その通りです。実は「だいち2号」ってカメラのようなレンズではなく、電波を地上にあてて、反射して返ってきた電波から細かな地形を観測する衛星なんです。皆さんが想像する色付きのきれいな写真が撮れる普通のカメラとは違って、ここから強い電波を送って、地上で跳ね返ってきた弱い電波をとらえているんです。

―――どうして普通のカメラではなく、レーダーで観測するのですか?

有川さん:レーダーの方が大きなメリットがあるんです。だいち2号は飛行しながら下にレーダーを出して地上の様子を一気に観測します。この観測する幅はどのくらいになると思います?

―――想像もつきません…。一体、どのくらいあるのでしょうか?

有川さん:答えは 490km。広域観測モードで観測するとそうなりますが、幅490km
というとだいたい東京の日本科学未来館から、岩手県の盛岡市ぐらいまであるんです。

―――普通のカメラよりも広い範囲で、しかも細かくデータとしてとれるところがすごいところなんですね。「だいち2号」はどんなことに使われるのですか?

有川さん:「だいち2号」にはいくつか役割がありますが、その大きな任務は私たち国民の命を災害から守ることです。レーダーのメリットは夜でも雨雲などカメラで見ることができなくても、地上の様子をとらえられることもあります。普通のカメラだと雲や雨に遮られて見ることはできませんが、「だいち2号」だと、細かく分かるのです。

―――なるほど。他にもあるんですよね。

有川さん:ほかにも火山活動を観測するにも役立っています。観測結果から火山活動の収束など、警戒レベル決定にも役立てられます。

―――だいち2号についてお話を伺ってきましたが、だいち2号のように地球を観測する衛星は他にもあるんですよね。

有川さん:地球観測衛星はそれぞれ特徴ある観測装置(センサー)を搭載していて、それがまた色々なことを教えてくれるんです。日本の近くの海を観測して海面の温度を測定すると、暖流・寒流などの流れが分かり、魚の種類別にどこにどんな魚がいるのか分かるんです。

―――すごい!他にも、私たちには予想もつかない、人工衛星の活用法はありますか?

有川さん:別の人工衛星なのですが、みんなが飲むお茶の畑を観測しています。あることを調べているんですが、何に役立つと思いますか?実は、葉っぱの成分が分かるんです。赤の色合いで、お茶の美味み成分の全窒素(アミノ酸など)や、葉っぱの固さを決める繊維質の割合がわかります。衛星のデータをもとに、おいしい茶が取れる場所や収穫のタイミングをはかります。そしてこうして獲れた茶葉は、地域の高級ブランド茶になっています。

―――地球観測って面白いですねえ!

有川さん:天気予報では、気象衛星「ひまわり8号」の映像がよくテレビに出ますが、実はそれだけではないのです。他にも雨の降っている様子が立体的に分かったり、空気中の水蒸気の量を観測して、降水予報の精度をあげたり、と様々なデータを組み合わせて、より良いサービスを生み出しています。まさに使えるデータは膨大なんです。


「コズミックカレッジ」は、人類のフロンティアである宇宙の不思議と宇宙を目指す人類の挑戦をテーマに映像と実験を組み合わせ、解説していく体験型サイエンス教室。9年目を迎えた今年は、ディスカバリーチャンネルのハイクオリティな映像とJAXAのホンモノ実験教室、さらにNHK「コズミックフロント」の高精細な映像で、宇宙への学びを深めてもらう機会を提供することを目的とした新プログラムの開発を行い、宇宙開発分野で世界をリードする三菱電機株式会社の特別協賛を得て、全国5都市(東京、神戸、名古屋、札幌、福岡)で開催されている、他に類を見ない無料イベントだ。

今年は、ツアーが行われる5会場で前半パートにそれぞれ違う特別講演や実験プログラムが組み込まれている。上記の有川善久さんの講演は、東京会場での講演会の一部を抜粋した。

 

学びの楽しさを実際に体験することで学校の成績もグングン伸びることが報告され、注目を集める「アクティブ・ラーニング(能動的学習)」。ディスカバリーチャンネルはコズミックカレッジをはじめとするイベントや放送を通して、アクティブ・ラーニングを支援している。

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