Credit : Hiroki Terabayashi

【黒田有彩のSPACE DISCOVERY】第3回 宇宙エバンジェリスト・青木英剛さん -後編-

黒田有彩のSPACE DISCOVERY
第1回 宇宙エバンジェリスト・青木英剛さん  -前編- はこちらから
第2回 宇宙エバンジェリスト・青木英剛さん  -中編- はこちらから
 

今、さまざまな書籍や記事で目にする「宇宙ビジネス」の特集。非宇宙系企業もどんどん参入してきていますが、この盛り上がりに大きく関わっているのが、宇宙エバンジェリストの青木英剛さん。かつて宇宙飛行士を目指した青木さんは、選抜試験に落ちた後から現在まで、どのように宇宙業界と関わっているのでしょうか。

それまで「こうのとり」技術者としてやってきた青木さんは、宇宙飛行士の選考のあと、もう少し大きな視点で宇宙業界と関わっていきたい、ビジネスのスキルやリーダーシップを身につけたいと思い、離職して大学院に行こうと決めました。なかなか真似のできることではないですよね。青木さんの人生は実に濃密です。

「大学院の二年間分の学費と生活費に、当時の貯金をすべてつぎ込みました。卒業したタイミングで貯金はゼロです(笑)。そこでMBAを取得して、また社会に復帰したのが30代半ばですね。そこからなにができるかなと考えたときに、やっぱり日本の宇宙業界って経営側が弱いんですよ。いい技術はあるんだけど、ビジネスで負けてしまう。これは宇宙に限らずいろいろな業界がそうなんですが、私は技術者としてのバックグラウンドを持ちながら、ビジネスの専門家としてもちゃんと支援ができる人になろうと思い、経営コンサルタントになりました」

30代半ばでMBAを取得し、ビジネスシーンに復帰。技術者と経営者の視点を持った青木さんは、日本のさまざまな企業にアドバイスをして、その会社を応援するという、経営コンサルタントとしての活動を始めました。 

「いろいろな技術系の会社や、場合によっては宇宙ビジネスのアドバイスとかを数年間やっていました。そこで体験したことなんですが、大企業の宇宙産業を盛り上げるのはもちろん大事なんですけど、組織が大きいと動きが遅くてなかなか進まないんですよ。一方でさまざまなベンチャー企業というものが出始めてきて、その中には宇宙ベンチャーもあって、彼らを見ていると、いろんな意味で苦労しているんですね。毎日、綱渡り状態ではあるが、大きな可能性を秘めたベンチャー企業の世界。そっちの方がおもしろいなと思いはじめました」

資金調達にビジネス計画。ベンチャー企業のフレキシビリティに魅力を感じた青木さんは、ベンチャー企業の方々を支援する、ベンチャーキャピタリストへと職業をシフトしました。

具体的に、どんなベンチャーに投資しているのか聞いてみたんですが、有名なところではアクセルスペースという会社。超小型の人工衛星を作っていて、大量に人工衛星を打ち上げて地球を観測し、宇宙ビッグデータをビジネスに利用していこうというプロジェクトです。これまでの人工衛星は3トン300億円といわれているそうなので、手のひらサイズになるという大革命が起きています。

他にも遠隔操作のロボットや、宇宙で使える基盤の材料など、宇宙というキーワードに直接的、間接的に関わる新しいアイデア、取り組みに対して投資しているそうです。

私が一番驚いたのは、ゆくゆくは人工衛星がハッキングされる時代が来るだろうということ。そしてその対策のためのサイバーセキュリティという分野が、非常に重要になってきているということでした。人工衛星のハッキングは、ちょっと想像しただけで、とても恐ろしい事態を引き起こします。そんな時代が来ないことを祈ります。

「ベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業をサポートして、いろいろな新しい産業を作っていくという裏方です。そしてその仕事を通して、とにかく宇宙産業を盛り上げたい。私が今までやってきたことの点と点が繋がって、今に至るわけです」

中学一年のときに夢みた宇宙。それときからぶれることのない宇宙への想い。宇宙産業に一途に尽力し続ける青木さんですが、コンサル業、投資家の枠では収まらない、独自の活動もスタートしました。

Credit: Hiroki Terabayashi

「『宇宙エバンジェリスト』と名乗りはじめました。宇宙ビジネスをプロモートする宣教師というか伝道師みたいな(笑)。私は投資家という仕事はしていますけど、大学で学生に教えたり、内閣府や経産省といった政府の政策委員会に入ったりしているので、いろいろなところでPRをして、宇宙産業を盛り上げていこうと思いました。宇宙にぜんぜん接点のない企業に、宇宙ビジネスに関わってもらおうという取り組みを、かれこれ4年ぐらいやってます。

例えば宇宙飛行士の話に戻すと、民間の宇宙飛行士というのは、まだほとんどいません。実際になるとしても、そうとう高いお金を払わないとならない。でも私は、『週末宇宙に気軽に行ける』という世の中を作りたいと思っていて、それを実現できる職業のひとつが、ベンチャーキャピタリストとして民間主導の宇宙産業を盛り上げていくこと。もうひとつが宇宙エバンジェリストとして、宇宙に行きたい人を増やすために、宇宙の魅力を伝えていくことで、行きたい人が増えれば、宇宙へのアクセスコストも下がり、コストが下がれば、海外旅行に行くノリで、気軽に宇宙に行けるという世の中が到来します。10年以内に実現できるとは思うんですけど、それをいっきに加速させていくのが、自分のミッションのひとつです」

青木さんのビジョンでは、10年後には気軽な宇宙旅行が始まっており、20年後には月や火星に人が住み始めている!ということでした。では100年後はどうなっていると思いますか?

「100年後は、確実に火星がコロナイズされていますね。地球人が火星に移って、そこで火星人が生まれていますね。トータルリコ—ルのような世界が確実にくると思います。そしてさらにその他の惑星に行くようなことが普通のことになっていて、人類の生存圏が広がります。

究極的には『宇宙飛行士』という言葉がなくなるぐらいにしたいですね。月や火星に人が住みはじめたら、普通に道を作るとか、家を建てるという職業の人をはじめ、地上で行われている産業がごっそりと宇宙空間にいくわけで、そう人たちは『宇宙飛行士』じゃないんですよね。そうなるとホントにSFの世界というか…(笑)。

100年ちょっと前まで、人は飛行機で空を飛べませんでした。それからの100年間でどれだけ進化したのかということを考えると、これからの100年は想像できないのですが、確実に火星はコロナイズされていると思っています。なので今は、そんな世の中が来ることを前提に何をすべきかを考えるタイミングなんだと思います」

壮大な夢、ビジョンを描くこと。そしてそのビジョンを実際の世界に描いていくこと。本当に信じている人こそ実現できるのだろうなと青木さんにお話を伺って感じました。

今回のDISCOVERYは『100年後の世界』。
みなさんはどんな未来を想像しますか?
どんな未来を創造したいですか? 

 

【プロフィール】
青木英剛(あおき ひでたか)三菱電機在籍中には、日本初の宇宙船「こうのとり」の開発に従事し、多くの賞を受賞。現在はベンチャーキャピタリストとして技術系ベンチャー企業への投資・成長支援に従事。宇宙エバンジェリストとして宇宙ビジネスを推進する取り組みにも多面的に関与している。
 【プロフィール】
黒田有彩(くろだ ありさ)中学時代にNASA訪問したことをきっかけに宇宙に魅せられる。大学では物理学を専攻。タレントとして宇宙の魅力を発信しながらJAXA宇宙飛行士の受験を目指す。2016年、株式会社アンタレスを設立。2017年4月より文部科学省国立研究開発法人審議会臨時委員に就任。放送大学『初歩からの宇宙の科学』『化学反応論』/FMヨコハマ『Tresen』木曜DJ / 誠文堂新光社『天文ガイド』連載/集英社インターナショナル『宇宙女子』ほか。 

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