【野良山伏 連載】第3回 轢かれたタヌキの皮をなめす

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。

 山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

 

何年も前のある夜です。田舎道を車で走っていると前方に何かが落ちていました。近づいてみるとそれはタヌキの死体でした。僕はそれを避けて通り過ぎましたが、バックミラーに小さく映るタヌキを横目にしながら、心の中に何かがひっかかりました。 

……僕はブレーキを踏み、Uターンしてタヌキの元へ戻りました。 

車に轢かれた獣たちは、そのまま放置しておけば行政の担当者などが回収して廃棄するか、後続車に何度も轢かれつづけ、ペラペラのボロ切れのようになってしまうでしょう。 

心の中にひっかかっていたものは、そうなってしまうことへの「なんか、もったいない」という気持ちでした。僕は貧乏性なので使えるものはすべて使い切りたいと思っています。轢かれたタヌキの死体も、解体して毛皮になめすことができるんじゃないか、そのとき僕はそう考えたのでした。

轢かれたタヌキを抱えてみるとまだ温かく、轢かれてからそれほど時間が経っていないことがわかりました。僕は車に新聞紙を敷いてタヌキをその上に乗せ、持ち帰りました。

 家について死んだタヌキを前にして「連れてきたものの、本当に解体なんてできるだろうか」としばらく途方に暮れました。手元には剥製をつくるための古い本があり、それだけが頼りでしたが、意を決してタヌキの体に包丁を刺し入れると、生々しい嫌な感覚がしました。

解体をして毛皮にする場合は、獣の首から腹の下まで切り込みを入れ、さらに胸から前足、下腹部から後ろ足にかけても切り込みを入れます。僕がはじめて解体したときは、内臓も取り出してしまいましたが、それは肉を食べる場合に必要なやり方で、毛皮だけなめす場合には余計な場所を切る必要はありません。誰にもやり方を教えてもらっていなかったので、その後何度か解体を経験するまで知りませんでした。 

その他、タヌキを解体してみてわかったことは、タヌキの脂がすごく臭いということです。その臭いをかぐと腹の底から胃液が逆流してきます。解体にはビニール手袋を使った方が良いのですが、初めての僕は素手で解体作業をしてしまい、数日間臭いがとれず、食欲がわかなくなりました。いまでは30分もかからず解体できるのですが、そのときの解体には4、5時間もかかってしまい、どっと疲れが出たのを憶えています。

解体して身体から剥がした毛皮は、余分な脂を丁寧に削ぎ落としたあと(単純作業ですがすごく大変)、一度、洗剤を使ってきれいに洗い、毛についた汚れを落とします。それから水気を取り、薬局で売っている焼きミョウバンと塩を塗り込んで、新聞紙などで軽くプレスしておきます。獣の大きさにもよりますが2〜3週間もすれば、ミョウバンとタンパク質が反応して、腐敗しない状態になります。 

毛皮に焼きミョウバンと塩を塗りこんだ状態
毛皮に焼きミョウバンと塩を塗りこんだ状態

そうして出来上がった毛皮は、想像していたものと違って硬いものでした。売り物の毛皮などは「クロムなめし」という化学薬品を使っているので、自分でなめす場合には「ミョウバン」で良いと思います。調べてみたところ、なめしの方法にはたくさんのやり方があるようで、ミョウバンの代わりに、その動物の脳みそや、植物のタンニンを使う方法もあるそうです。 

さて、このときのタヌキの毛皮は、山伏装束の「引敷(ひっしき)」という尻当てになり、今でも愛用しています。引敷には、山で修行して聖なる存在になっている山伏が獣を身につけることで、獣は下等なものではなく人と同じなんだ、という考え方があります。 

Credit: Yohta Kataoka

それから僕は轢かれた獣がいれば持ち帰って毛皮にするか、新鮮な場合は食べるようになりました。山形ではタヌキのほかに、ハクビシンやアナグマやノウサギ、スズメや鴨などの鳥類、稀にツキノワグマの子どもが轢かれています。

ちなみに先述したように、タヌキは脂が臭くてほとんどの時期は食べることができないのですが、冬の始まりの時期だけ、何故か脂の臭みがなくなるので食べることができるようになります。ハクビシンやノウサギは思っていた以上に美味しかったです。 

こんなことを書いていると、すごく肉食が好きな人と思われることがあるのですが、最近は40歳を越えたためか、肉より野菜が好きになりました。

タヌキはくさいというイラスト
Illustration: Daizaburo Sakamoto

【野良山伏 連載】第1回 『カメムシを美味しく食べるコツ』はコチラ
【野良山伏 連載】第2回 『ガマガエルと忍者と山伏』はコチラ

坂本 大三郎

坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。