ハッとするデザインはどのように生まれるのか。そのヒントが街のスナックに!?グラフィックデザイナーの北川一成さんが話題の東京丸の内のスナック「来夢来人」で語る「人の心を動かす」奥義。
日本屈指のビジネス街。人と物が溢れるこの街に、突如現れた不思議な空間。ここには、フランス人画家の展覧会との意外な関係があった。
北川:とりあえず会場に来てもらって自分の目で見てもらいたいなって思ったから ああいう広告を作ったんです。
東京・丸の内 新丸ビルの中にある「来夢来人」。 洗練されたビジネス街で異彩を放つスナックがある。
北川一成(以下、北川):来夢来人に行くと、掃除はしてあるんだけど、分からないぐらいごちゃごちゃしてて。ポスターも剥がして、貼り直せばいいのに、上から貼ってあったりして。あの、清潔なんだけど、それとは違うなんかごちゃごちゃ感があるんですよ。
ディスコからスローフードのレストランまで数多くの空間を手がけた 佐藤としひろさんが、このスナックの仕掛け人だ。
佐藤としひろ(以下、佐藤):お店には、無駄というか、足りないものをやはり必ず残しておくというのが、作り方としては意識をしてて。
フランス人画家、オディロン・ルドンの展覧会ポスターの依頼を受けていた北川一成さんは、来夢来人に、デザイナーの北川さんは、ある課題を解決するヒントを見つけた。
北川:自分の表現を追求した人で。すごくアバンギャルドな画家ですね。僕からしたらパンクな人で。
黒一色の奇妙な絵から、色彩豊かで幻想的な絵まで。19 世紀という時代に、ルドンは様々なスタイルに革新的に挑戦した画家だった。しかし、フランスでは有名な彼の名前も、日本ではまだまだ知られていない。
北川:そういうルドンを、どうやったらこうPRできるかっていうのが、元々の依頼内容。
当たり前のことをしても、話題にはならない。
北川:やってはいけないシリーズをずっとやってみたんですよ。
文字や隙間、言葉遣いを気取り過ぎないよう工夫。 ルドンに親近感を持ってもらえるようにした。
北川:アートに興味のある人に納得してもらえるビジュアルを作っちゃうと、 興味のない人からすると、「私たちは来ちゃいけいないんだ」とかね。 そういうコミュニケーションになりかねないかなって思って。
デザインにおける大切な役割。それはコミュニケーション。スナックは、それを学ぶ最適な場所なのだ。佐藤さんにとっても、新しい空間を作る時、大事にするのは、「人と人との交流」だった。
佐藤:来夢来人も最初はもう壁が白くって。ポスターは何も貼ってなくって。色んな人が来ることで、お店の空気感って変わってきますので。何か少しこう埋めてくれるものがスナックの中にはあるのかなと。色んな人とこの場ですぐお友達になれたり、今の時代に必要なものかなと。
気取らずに、自分をさらけ出す。それが、スナックで多くの人と繋がるつながる大切なポイントだった。この気づきが、ポスターのデザインにもつながったのだ。
北川:ダサいデザインだって作っている本人はわかっているから、洗練されているというのは真逆なんだけれど。アートとかデザインに興味のない人は、案外自然に見ちゃうんですよ。字おっきいし、見やすいし。とか。
そしてもう1つ、ポスター作りのヒントがここにはあった。
北川:スナックみたいなこう丸の内にあったら、みんな「何これ」とかってね。僕ら、言ってるんですよね。 「何これ」って言っている時点で、もう佐藤さんの罠にハマってて。
とっつきにくいと思われがちな「アート」というテーマ。 デザインのタブーに挑戦し、注目を集めることができた。
北川:真面目な時のルドンを見た人がすごい怒って。 「ルドンはこんな不良じゃねえんだよ」みたいなね。 で、ルドンとは何か、っていうのがこう、反対する人と、賛成する人で、すごい議論が誘発して。 知らない人が、どんどんルドンに興味を持っていくんですよ。
北川:デザインはなんかこう、儚いよね。なんかね。そもそもその主役は、来た客だから。客が面白くなかったら、もうダメですよ。「あの時よかったね」っていう思い出を作っていると思わないとやってらんない。残らないから、みんな。人の記憶に残るようなことをしたいなと。