【野良山伏 連載】第2回 ガマガエルと忍者と山伏

坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。

山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

Credit: Yohta Kataoka
 
初夏を迎えると、僕は故郷の千葉の田園地帯に出かけてガマガエルを捕まえます。ガマガエルはとても美味しい生き物で、かの魯山人も、その味に感動して『蝦蟇(がま)を食べた話』を記しました。このガマガエルと山伏は浅からぬ因縁があるのですが、それを分かってもらうためには、少し回り道をしながら説明する必要がありそうです。

明治政府の修験道廃止令によって、山伏は一般の人からは馴染みのない存在となり、理解の及ばない存在になってしまいましたが、武士や忍者については、ほとんどの人がはっきりとイメージできるのではないでしょうか。でも実は武士や忍者と山伏というのは、とても近い存在……というか、ほとんど同じ人たちといっても過言ではありませんでした。

中之条の険しい山.を登る
 

先日、群馬県の中之条町でおこなわれている芸術祭「中之条ビエンナーレ」のトークイベントに出演してきました。中之条町は街道沿いに立つ市に由来を持つ町で、その街道は中之条を北に抜ける、江戸から越後に続く道であったそうです。戦略上、重要な地域であり、戦国時代には上杉家や武田家、北条家などが支配権を巡って争いを繰りひろげました。

大河ドラマの『真田丸』に登場した寺島進扮する出浦盛清が拠点にした岩櫃城があるのは、この地域です。出浦は真田家の忍者の棟梁で、中之条町周辺には忍者の痕跡がたくさん残されていました。いろいろな物語に登場する有名な猿飛佐助が修行したのも、この周辺の山とされています。

真田の忍者が輩出されたこの地域は、古くから山伏が拠点にしていた山が連なり、山伏が修行した山の麓には忍者の墓が残されています。かつて大名などに支配された人たちは、移動を禁じられ気軽に旅をすることができませんでした。しかし山伏はそうした俗権力に縛られない神仏の民と考えられたので、関所を通過することができました。そのため物の流通や情報の伝達を担う商人としての役割も持っていましたが、それを権力者が利用するとき、忍者ともなったのでした。

また真田がこの地に攻め入ったとき、敵であった上杉方の斎藤憲広は戦に敗れ、敗走する際に山伏の格好をしていたと伝えられています。斎藤憲広は山伏として神照坊という名を持っていたそうです。このように武士、忍者、山伏は立場や状況によって姿を変えるものの、その出自はとても近いところにある存在でした。

なかでも僕にとって興味深かったのは、山伏が自然に関する知識を豊富に持っていたと言うことです。中之条町の博物館にも山の民に伝わってきた薬草の秘伝書が展示してあり、山伏がかつての医者の役割をもっていたことを思わせます。実際古い医者の家系の先祖が山伏であるケースは少なくありません。

Credit: Yohta Kataoka
 

ここで冒頭のガマガエルの話に戻りますが、山伏が拠点にしていた筑波山などは古くからガマの油の産地として知られています。ガマガエルは身に危険がおよんだときに、目の後ろ、耳にあたる部分から白い分泌液を出します。いわゆるガマの油です。それをセンソと言い、強心作用や麻酔作用があるとされ、薬として使われてきました。

魯山人が蝦蟇を食べた際に「美味しかったけどちょっと苦かった」というようなことを書き残していますが、おそらく調理するときにセンソが肉に付着してしまったのだと思われます。僕の愛読書だったムツゴロウさんの『われら動物みな兄弟』にもガマガエルのセンソを口にした記述があり、やはり食べると苦味があるのだと述べられています。そして「不思議にからだがシャンとなる」とも書かれていて、高校生の頃の僕は、好奇心から近所の沼に出かけて「センソ=ガマの油」を舐めてみたのでした。

おそるおそる口に入れたガマの油は、苦味を感じる間もなく舌に電撃のような刺激が走り、僕は何度も唾を吐き続け、その後、舌が痺れて悶絶したことを憶えています。

なので、ガマガエルを食べる際には、センソが肉につかないように、まずトンカチなどでガマの頭を殴って気絶させ、意識が戻らないうちに手際よく捌いてしまうことが肝心です。ガマの肉の味はシャキシャキと歯ごたえがあり、深い旨みのある鶏肉のようです。その後、店で売っている食用のカエルを食べてみましたが、野生のガマガエルを食べたときの旨さには到底およびませんでした。

さて、ガマの油を舐めたつらい思い出の後に知ったことですが、ガマの油は幻覚剤としても使われることがあったそうです。それを知って、僕は忍者のことを頭に思い浮かべました。よく芝居に登場する自来也(じらいや)のように、大ガマガエルの上に乗って、山伏のように印をかまえている忍者の絵を目にします。もしかするとガマの油を使って敵に幻をみせて欺く忍法があったのかもしれません。

Illustration: Daizaburo Sakamoto
 

気絶しているガマガエル
 

美味!ガマガエルの肉
 
 

『【野良山伏 連載】第1回 カメムシを美味しく食べるコツ』はコチラ

坂本 大三郎

坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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