グラフィックデザイナーの北川一成さんが建築家の川添善行さんと手がけた「変なホテル」。そのブランド秘話に迫る。
テーマパークでもない、博物館でもない、なかなか予約が取れない人気ホテルがある。そんなホテルを手がけた人の頭の中には、どんなアイディアがあったのだろうか。
北川一成(以下、北川):幸せとか、なんか「自分が生きててよかった」とか、こう。楽しいっていうのをデザインしたいんですよ。
長崎のハウステンボスに2015年にオープンした「変なホテル1号店」。フロントやクロークにはロボットばかり。その他にも、エアコンなしでも涼しさを保つ構造や、宿泊料をリーズナブルにしたことなど、様々な試みが話題となっている。
デザイナーの北川さんは、近年、挑戦的なデザインを多く手がけている。同じく、「変なホテル」「イーストアーム」を手がけた建築家、川添善行さんと共に、デザインの本質を探る。
川添善行(以下、川添):まあ、「スマートホテルプロジェクト」っていう、最先端の技術を集めようよっていうコンセプトでやってて。ようやくこう、大枠が固まって来たくらいで、はたと気づいたんですよ、みんな。「名前はこれでいいのか?」とか。
「スマートホテルプロジェクト」というネーミングの何に違和感を感じたのか?
北川:流行っている言葉って、結構こう、風化しちゃうんですよね。変化し続けるホテルだから「変なホテル」っていう名前をね、考えて提案したんですよ。
川添:もう、爆笑ですよね。
北川:10人中9人、はっきりアウトって言ってましたからね。
川添:やっぱこう、受け止めるのにみんな時間がかかったのはやっぱ事実ですよね。すげえ、電話とかも来ましたもん。「もう、こんなん常識としてありえません」みたいなのとかは結構いただきましたね。
しかし、「変なホテル」と名付けたことである効果が生まれた。
北川:みんななんか、「あれ?どこが変なの?」って大体みんな聞いてくれるんですよ。だからきっかけをこう作るっていうか、コミュニケーションが誘発されないと、次の展開にならないっていつも思ってて。
一度聞いたら忘れられないこの名前が、様々な興味や関心を引き寄せた。
川添:こう、建築とかが、社会の中でこういう風にこう関心を持ってもらえるってほとんど今までなかったはずなんですよ。変なホテルは、それをなんか実現したというか。
北川の遊び心は、ロゴマークにも詰まっている。
北川:ロゴマークはね、あれはね、蝶々なんですよ、一応。昆虫って完全変態するでしょ?変わり続けるホテルのモチーフにしたんですよね。あれ、クレヨンしんちゃんのオケツ見たいでしょ?あれ。まあ、物の見方だけど、見ると笑っちゃうと。もう、「変なホテル」で通っちゃったから、みんなまあ、それはじゃあ、はい、みたいな。諦めの境地なってたよね。
ロゴの文字には、どんな工夫を?
北川:名前は変だけど、タイポグラフィとかは、かっこよくしたんですよね。そういうギャップが大事になんですよ。文字が読めない人が見ても、そういう、身体感覚というか、情動に訴えかけるような、形の印象かな。どのスイッチを押したら人が興味向くかとか、そういうことばっかり考えています。
デザインでコミュニケーションを生み出す。北川さんが大切に思うことの一つだ。
川添:発し手と受け手がいて、両方含まれているのが、コミュニケーションだと思うんですけど。北川さんがやっているのは、まあ、グラフィックを通しながらコミュニケーションをデザインしていると思うんですよね。
北川:コミュニケーションって楽しい方がいいんですよね。それをどういう風にしたら、会ったこともない人たちがこう、繋がっていったり。
川添:北川さんにはね、愛があるんですよ。「そんなの知らねえよ」みたいな割と素ぶりをするところもあるんですけど。
北川:人間観察大好きなんですよ。人に伝えるっていう仕事だから。不特定多数の人がどういう風に反応するのかっていうのを、もっと掘り下げていきたいなと思っているんですよ。