Credit : Yohta Kataoka

【野良山伏 連載】第1回 カメムシを美味しく食べるコツ

はじめまして。坂本大三郎です。山形の出羽三山を拠点にしている山伏です。でも生まれも育ちも千葉県で、とくに先祖が山伏であったというわけではありません。そのあたりの詳しいことはおいおい触れさせていただきたいと思っていますが、僕が山形で暮らすようになったのは、山形に残っている山伏の文化や狩猟採集文化など、自然の中で生きる知恵や技術を学びたいと思ったからでした。
山伏になっておよそ10年。この連載では、そんな山暮らしで得た知恵や技術のいくつかを紹介して行こうと思います。

Yamabushi

Credit: Yohta Kataoka

修行や山案内などで慌ただしかった夏が終わり月山の山頂が色づいてきました。ヤマブドウ、アケビ、栗、ブナの実やキノコを採ることも山伏の大事な仕事のひとつです。出羽三山周辺の旅館はもともと参拝客を相手にする宿坊のような性格を持っていたところが多く、ずっと昔から参拝客をもてなすために山伏が採ってきた山の幸が料理として出されてきたのでした。
山形にやってきて、山で暮らす人たちと接していると、自然の知恵の豊かさに驚かされました。山のどこにどんな山菜、薬草、きのこが生えているのかを熟知していて、遭難者がいれば天候や山の様子をみて、どのあたりに遭難者がいるのかをピタリとあてるといった場面に何度か立会いました。
そうした山人たちが大切にしているのは山の生き物たちを無駄に獲り過ぎないということです。彼らにはずっと昔から山から得てきた食べ物によって命をつむいできたのだという意識があり、無駄な殺生をしたり、食べ物を粗末にあつかうことをとても嫌います。大量の残飯が捨てられている飽食の時代に、そんな彼らの姿をみて僕は深く感動したのでした。
そんな純粋だった僕の心に大きな衝撃を与えたのが秋のことです。山形の山間部には毎年秋になるとカメムシが発生します。カメムシのことを山形ではヘクサムシとかヘクサという名前で呼び、じきに訪れる冬に備えて窓や、畳のすき間、カーペットの裏などに侵入して、それに気がつかずに少し触れてしまうと部屋中に充満する「屁」をするため大変嫌われています。

クサムシ

Illustration: Daizaburo Sakamoto

ある日、僕は用事があり知り合いの山人のところを訪れていました。部屋の中で山人は目を血走らせながら掃除機を抱えていました。そしてカメムシをみつけると鬼の形相をして掃除機で吸い込むのです。カメムシもそれに抵抗して掃除機の中で屁をこき、しばらく部屋が臭くなります。僕は目を疑いました。これが山の生き物を大切にしないといけないと言っていた人と同一人物なのでしょうか。
そして山人のみならずカメムシを見つけるなり始末するのは近隣のお寺においてもおこなわれていました。仏門では殺生を禁じているはずでは……と思いましたが、そのお寺では水を入れたお茶入れに箸でつまんで放り込み窒息させるというスタイルでした。山形ではその他にもティッシュで包む方法や、手に巻いたガムテープでくっ付けて取りゴミ箱に捨てる方法などがありました。
僕は山形でのカメムシの嫌われように驚きを感じました。カメムシは山形の人の意識の中で生き物として認めてもらえてないと思えるほどです。山形において煮ても焼いても喰えない虫、それがカメムシなのです。
しかし本当に煮ても焼いても喰えないのでしょうか?僕は以前、東南アジアやアフリカなどではカメムシが貴重なタンパク源として食べられていると耳にしたことがありました。もしカメムシが食べられるのだとしたら、憎しみの対象にしかなっていない現状から、少しは可愛らしい虫と思ってもらえるようになるかもしれません。
僕は東南アジアの昆虫食について調べてみました。それによるとカメムシの食べ方にはちょっとしたコツがあり、まずカメムシを生きたままお湯につけて臭い屁を全部出してしまい、それから油で揚げるなどして食べるのだそうです。
早速試してみました。カメムシはすぐに何十匹も捕まりました。それをお湯に入れると湯気と一緒に臭いが上がってきました。なかなか威力があり、苦手な人はこの臭いは避けた方が良いです。そしてキッチンペーパーで水気を取って、油で揚げ、塩胡椒をふって食べてみました。味はポテトチップスのようです。ほのかにパクチーのような香り※がしましたが、意外なほど普通でした。
ただし、その後何度か試した際にカメムシを入れるお湯を熱くし過ぎてしまい、カメムシが屁を出す間もなく即死してしまったため、臭いが抜けきれず、それを口に入れた時にはかなり強烈な刺激があったので、お湯の温度には注意しないといけません。昆虫食が盛んなラオスあたりではカメムシの臭いが残っているほど通の味とされているそうですが、僕はまだその域に達することはできていませんでした。
こうしてカメムシが食べられることがわかったので、山形でもカメムシ料理が名物になればいいなと思っています。

※カメムシとパクチーは匂いの成分は似ており、パクチーのことを「カメムシ草」と呼ぶ地域もあります。

山伏 野良 カメムシ 坂本大二郎

Credit: Yohta Kataoka

坂本 大三郎

坂本大三郎(さかもとだいざぶろう) 1975年生まれ、千葉県出身。東京でイラストレーターとして活動後、30歳で山伏の文化に飛び込む。東北の出羽三山の山奥で暮らしながら、美術作品の製作、古来の文化や芸能の研究・実践をおこなっている。著作に「山伏と僕」(リトルモア)、「山伏ノート」(技術評論社)がある。

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